第44章 -運命-(及川徹)[中編]
-及川side-
「…ありがとうございました。
色々すみませんでした…」
あんなに拗ねていた彼女は、
やっぱり改札前ではきちんとお礼を言った。
真面目だなぁ。
「いーえ♡」
昨日の夜からさっきまでのコトを思い出すと、
思わずクスクス笑ってしまう。
「な…何笑ってるんですか⁈」
「べっつにー♪」
「もういいです‼︎じゃあ…失礼します‼︎」
彼女はまた真っ赤になって
拗ねて改札に向かって行ってしまう。
あんなにしっかりしてる人が、
こんなコトで拗ねて頬を膨らますのが、
いちいち可愛い。
「あ‼︎ちょっと待って‼︎」
彼女の腕を掴み、改札から少し離れる。
「あの?」
「言い忘れてた!」
「…?」
「その服、似合ってるよ。
いってらっしゃい♪」
彼女の耳元で囁いて、
オレは彼女とは違う路線の改札へ向かった。
さすがにココでキスはできないし、
ほんとは照れた彼女の顔を見たかったけど、
それはまた今度見せてもらおう。
さぁて…どこ行こっかなぁ。
会社に直行とは言ってあるけど、
もちろんそんなの嘘。
接待の次の日だから、
念のため〜って思っただけで、
まさか、こんなコトになるとは
さすがに思ってなかったけど。
たまにはサボってもバチは当たらないだろう。
オレは電車に乗って、あの店へ向かった。
ランチ営業はしていないけど、
仕込みがあるから、もう店にいるだろうし。
「いーわちゃん♪」
昨日行ったばかりの”岩泉”の暖簾をくぐる。
「及川⁈なんでこんな時間に…?
つぅか、仕込み中だっつーの‼︎入ってくんな‼︎」
相変わらずの愛情の裏返しの
岩ちゃんのお出迎えをスルーして、
オレはカウンターに座った。
「いいじゃない♪
昨日あんまり話せなかったしー。
あれ?ひろちゃんはー?」
「春人の幼稚園寄ってから来る。」
「ふーん。」
「で、おまえは何しに来たんだよ?」
岩ちゃんはオレを追い返すコトを諦めたのか、
仕込みを続けながら話し掛けてくれた。
「別にー。たまには岩ちゃんの
働く姿を見ようかなーって。」
ガラッ…
「ごめん、遅くなっちゃった…
あれ?徹くん?どしたの?
ついにクビ?フリーターまっしぐら?」
ひろちゃん…岩ちゃん以上にヒドイよ…