第44章 -運命-(及川徹)[中編]
やっと、及川さんと家を出て、
初めて家の周りを見る。
部屋も広いと思っていたけど、
及川さんの家は、
新しい大型マンションだった。
しかも、及川さんちは高層階。
「あ!”いってきますのちゅー”しなかったね。」
エレベーターを待ちながら、
及川さんはわたしの耳元で囁いてきた。
「お見送りしたわけじゃなくて、
二人で家を出たんだから、
”いってきます”もクソもないじゃない。」
もうドキドキしてやらないんだから‼︎
「その言い方、岩ちゃんぽくてヤダなー。
さっきまであんなに可愛かったのにー。」
わたしがツンと言い返すと、
及川さんはめげずにわたしの頬をつついた。
「及川さんっ‼︎」
及川さんに文句を言おうとすると、
ちょうどエレベーターが来て、
若い奥さんぽい人が2人降りて来た。
「及川さん♡」
「おはようございます♡」
幼稚園のお見送りの帰りなのだろう。
子どもの上着を持っている。
「おはようございます。
朝からお見送り大変ですね。」
及川さんは安定の爽やかスマイルで、
奥さま方をロックオンしている。
「いえ〜♡」
「及川さんもお気をつけて〜♡」
「「いってらっしゃーい♡」」
奥さま方は目をハートにしたまま、
ついでにわたしのコトもしっかり観察していた。
「ちょっ…いいんですか?」
エレベーターが閉まってから、
わたしはすぐに及川さんに話し掛けた。
「何が〜?」
「あの奥さまたち、
わたしのコトすごい見てたから…」
「別にいいんじゃない?きっと今頃、
”及川さん、彼女できちゃったのかしらー”
なんて、話で盛り上がってるよ♡」
「そ…それっていいんですか⁈
ご近所で変な噂立ったり…」
「心配してくれてるの?優しいなー。」
「ちがっ…」
「じゃあ、変な噂にならないように、
ほんとにオレと付き合ってくれる?」
「ふ…ふざけないでください‼︎
あの奥さまたちがお見送りしてくれたんだから、
”いってきますのちゅー”してきたら
いいんじゃないですか⁈」
「ちぇ〜っ。」
ちょうどエレベーターが1階に着いたので、
話はそこで終わったけど、
急に及川さんを取られたみたいに感じて…
なんだか、すごくイヤだった。
彼女でもなんでもないクセに…