第44章 -運命-(及川徹)[中編]
「ねー、早く選んでよー?遅刻しちゃうー!」
駄々っ子のように騒ぐ及川さんに
もう逆らえないと思ったわたしは、
仕方なく及川さんからネクタイを2本受け取り、
及川さんの胸元に当てて見比べた。
シャツ越しの胸板を見つめると、
朝方、この胸に抱き締められていたのかと、
またさっきのコトを思い出してしまう。
「こ…こっちで‼︎」
はぁ…ほんと何考えてるんだろ…
わたし、やっぱりおかしい…
わたしは雑念を振り払い、
及川さんのシャツが、
淡い水色のストライプだったので、
紺のネクタイを選んだ。
「オレもこっちのが好きー♡
ね?ネクタイして?」
「な…⁈い…いい加減にしてください‼︎
それくらい自分で…‼︎」
「それくらいいいじゃない♪
早くしないと、ほんとに遅刻しちゃうよ?」
「…っ‼︎⁈わ…わかりましたっ‼︎」
優しくわたしを見つめる
及川さんの視線に耐えきれなくて、
わたしは観念して、
及川さんのネクタイを結ぶコトにした。
「少し屈んで…」
「はぁい♪」
わたしがネクタイを結びやすいように
及川さんが少し屈むと、
背の高い及川さんと一気に距離が縮まる。
香水だろうか?
ほんとにほのかにいい香りがする。
「檜原さんていい匂いするよね♪」
「な…⁈変なコト言わないでくださいっ‼︎」
「別に変なコトじゃないのにー♪」
変なコトを考えていたのは、わたしだ…
ほんとに…なんで…?
「で…できました…」
「ありがと♪」
及川さんから離れると、
及川さんは、鏡を見て満足そうにして、
今度は少し大きな紙袋を持ってきた。
「昨日着てた服、コレに入れたら?」
「え…?」
「ウチに置いてってもいいけどね♪」
「いえ‼︎使わせていただきます‼︎」
わたしは慌てて及川さんから紙袋を受け取り、
いったん部屋に戻って服を入れた。
及川さんが渡してくれたのは、
patisserieHYBAの紙袋だった。
この前のパーティの時のだろう。
ちょっと大きめの紙袋…
patisserieHYBAの紙袋だったら、
わたしが会社に持っていっても違和感ない…
偶然かもしれない。
でも、及川さんは、
敢えてこの紙袋を選んでくれた気がした。