第44章 -運命-(及川徹)[中編]
「ち…ちがっ…‼︎
起きたなら、はなしてくださいっ‼︎」
「え〜?
起きてないならはなさなくていいの?」
「そ…そうじゃなくて‼︎」
わたしがバタバタ暴れて抵抗しても、
相変わらず及川さんは
わたしを解放してくれない。
「せっかく夜這いに来てくれたなら、
朝まで楽しもうよ?」
及川さんはわたしの胸元から、
トロンとした色っぽい目で、
わたしを上目遣いで見つめてきた。
「…っ‼︎な…な…何言って…⁈
てゆぅか‼︎夜這いじゃないわよ‼︎
それに、夜じゃなくて、もう朝ですっ‼︎」
寝起きの及川さんの表情に、
思わずドキッとしてしまった自分が情けない。
それに、こんなことしている場合じゃない。
「ち…遅刻‼︎もう7時半なんです‼︎
早く準備しないと…」
「えー?まだ7時半なの〜?
あと30分は余裕で寝れるじゃん。」
え…?30分…?
「檜原さんのトコって、始業9時半でしょ?」
「そう…ですけど…」
それが何か…?
「ウチからなら30分あれば着くもん。」
え…?あれ…?計算が…合わない…
「オレも今日は直行だし、まだ平気だよ。
んん…やっぱり気持ちいい…」
そう言って、及川さんは
またわたしの胸に顔を埋めてきた。
「やっ…及川さんっ‼︎」
赤坂から1時間以上かかる…のに、
ウチの会社に30分で行けるって…⁇⁇
それって……
「お…及川さん、昨日嘘ついてたんですか⁈」
「ん〜?なんのこと〜?」
「はなしてくださいっ‼︎」
ペチンッ‼︎
わたしは及川さんの頬を叩いて、
やっと及川さんのベッドの中から抜け出した。
「最低っ‼︎なんでそんな嘘ついたんですか⁈」
「いった〜‼︎もう‼︎キスなら大歓迎だけど、
何もほっぺた殴らなくたっていいじゃない‼︎」
及川さんは岩泉さんたちに怒っていたように
プリプリ拗ねているけど、
怒りたいのはこっちのほうだ。
「殴り足りないくらいよ‼︎ヘンタイっ‼︎」
「ヘンタイって…あのねぇ…」
及川さんは頬をさすりながら上半身を起こした。
「いくら取引先の相手とはいえ、
男の前で酔って眠りこけて、
それで何されても文句言えないと思うけど?
一応、今のところ何もしてないしね。」
「…‼︎」