第44章 -運命-(及川徹)[中編]
「…っ⁈見せるわけないじゃないですか‼︎」
「…!」
彼女が付き合ってもない黒尾くんに
スッピンを見せるわけがない…
わかってはいたけど、
彼女の口からちゃんと聞きたかった。
「じゃあ…彼氏でもないのに、
檜原さんのスッピン知ってる男って…
オレだけなんだ?」
「へ…変な言い方しないでくださいっ‼︎」
「普段のメイクした顔ももちろん好きだけど…
今のスッピンも好きだな♪」
「からかわないで‼︎」
「からかってないよ♪」
まだ濡れている彼女の髪に手を伸ばすと、
彼女は真っ赤になって後ろを向いてしまった。
それはそれで、お尻のラインが見えて、
こっちもヤバイんだけどなぁ…。
「及川さんっ‼︎も…もう‼︎お願い…だから…」
これ以上やると嫌われるやつだな…
「ごめんごめん。
檜原さんがあまりにも可愛いからさ。…はい♪」
オレは後ろ手に隠していた
わざと一緒に渡さなかったハーフパンツを
彼女の右手に持たせた。
「あ…ありがと……⁈
及川さんっ⁈もしかして、わざと…‼︎」
彼女はやっと気付いたようで、
ものすごい勢いで振り返り、
また、キッとオレを睨んでいる。
「なんのこと〜?
パジャマよりこういうのがよかったんでしょ?
檜原さんの考えてるコトがわかっちゃうなんて、
相思相愛なのかなっ♡?」
「最低っ‼︎バカっ‼︎ヘンタイっ‼︎」
彼女が睨んでもちっとも怖くないし、
彼女の口から子どもみたいな
単語ばかり出てくるのが、
可愛らしくてしかたない。
「最低でもバカでもヘンタイでもいいよ♪
もうオレにはスッピン見せるの、
抵抗なくなったなら♪」
オレは彼女に一歩近づき、
彼女の顔を覗き込んだ。
怒って興奮した彼女は、
ハーフパンツを渡したにもかかわらず、
まだスッピンTシャツのままだった。
「やっ‼︎」
バタンッ‼︎
彼女はようやくバスルームへ戻っていった。
「ドライヤーは右の棚にあるから。
歯ブラシは左下の引き出しに予備があるから、
それ使っていいよ。
じゃあ、オレは部屋に戻るね。
姉さんの部屋の右隣の部屋だから。
夜這いしに来てもいいよ♪」
「絶対行きませんっ‼︎」
オレはなぜだか満たされた気持ちのまま、
彼女の声を背に部屋に戻った。