第44章 -運命-(及川徹)[中編]
-及川side-
起きてからの彼女の反応は楽しかったけど、
最後の”スッピンが恥ずかしい”と言う彼女が
ものすごく可愛かった。
たしかに可愛かったのだけど、
思わず抱き締めたくなった自分にビックリした。
そもそも、
赤坂から電車で1時間以上かかるなんて嘘だし。
そこまでして、
オレは彼女を帰したくなかったのか?
なんで…?
その疑問について考えるのは後回しにして、
オレはスッピンを見せたくないという彼女を
姉さんの部屋に案内した。
「この部屋、使っていいから。」
「…。」
姉さんの部屋に
甥っ子のオモチャもあるからだろうか?
”赤坂から電車で1時間以上の郊外”は
信じているようなのに、
彼女は半信半疑で姉さんの部屋を見ていた。
疑り深い彼女の信じるポイントと
疑うポイントがいまいちわからない。
「服はクローゼットから好きなの着ていいよ。
あ、でもオレが選びたいかも。」
姉さんのクローゼットを開ける。
スタイルも似てるし、たぶん着られるだろう。
「あの…お姉さんの服、勝手に着ちゃ…」
「月末まで来ないから大丈夫。
う〜ん…こっちかな。どう?」
シンプルなワンピースと
ジャケットを彼女に渡す。
「かわいい…ですけど…
ほんとにお借りしていいんですか?」
「明日も同じ服着てって、
黒尾くんたちに疑われてみる?
”及川さんといーコトしたのかな〜”って♡」
「…っ⁈…お借りします。」
「…。」
黒尾くんの名前に反応したのが
なんだか、ちょっと気にくわない。
彼女から目をそらし、話もそらした。
「そこのサイドテーブルに
化粧品あるでしょ?使っていいよ。
バスルームはあっちのドアね。
オレは部屋にいるから、
スッピンでオレに会うコトもない。
それならいいでしょ?」
「は…い。あの…」
「なぁに?」
「わたし、ココまでどうやって…?」
今それ聞くかなぁ?ま、気になるか。
「もちろんお姫様抱っこ♡」
「えっ⁈」
「と、言いたいトコだけどね〜」
「…っ⁈ハッキリ言ってくださいっ‼︎」
予想通り真っ赤になっているのに、
強気な物言いがなんとも可愛い。
「普通におんぶしてタクシーに乗せて、
マンション着いたらまた家までおんぶして、
ソファに寝かせただけだよ。」