第44章 -運命-(及川徹)[中編]
「残念ながら、何もないよ。」
及川さんはわたしの心の声が聞こえたのか、
何もない…と断言してくれた。
ほっ…よかったぁ…。
「覚えてない?
オレが電話してる間に
オレのワイン飲んだでしょ?」
「はい…」
だって及川さんがあんな…
少しずつ記憶が蘇ってくる。
わたしのおでこに手を当てて、
優しい目で見てくるから、
恥ずかしくて…喉が渇いて…
あの時の及川さんを思い出しただけで、
また恥ずかしくなってきた。
「オレが戻ってきたら、ぐっすり眠ってて、
何回起こしても起きないし、
檜原さんち知らないし、
ウチに連れてきた…ってわけ。わかった?」
「ココ、及川さんちなんですか⁈」
「そうだけど?」
うっわぁ…最悪だ…
しかも、取引先の担当者相手に…
「あ…の…
ほんとにすみませんでしたっ‼︎…っ⁈」
「おっと…‼︎そんな気にしなくていいよ。」
慌てて立ち上がって頭を下げると、
寝起きだからかフラついてしまい、
及川さんが抱きとめてくれた。
「す…すみません…もう大丈夫ですから!」
わたしは慌てて及川さんから離れて、
ソファに座った。
「もっと甘えていいのに♪」
「甘えません‼︎あ…でも、ほんとにすみません。
あの、わたし、帰ります!」
「どうやって?とっくに終電ないよ。」
「タクシーに決まってるじゃないですか!」
わたしはもう一度立ち上がり、
上着と荷物を探した。
「ココ、赤坂から電車で1時間以上かかる郊外。
この辺、タクシーいないよ。」
「え…?」
「泊まってきなよ。オレは構わない。」
泊ま…る…?
「わ…わたしが構いますっ‼︎」
「なんで?
及川さんのコト襲いたくなっちゃうから(笑)?」
「違いますっ‼︎死んでも襲いませんっ‼︎」
「襲ってくれていーのに♪」
「いいわけないでしょっ‼︎」
「ちぇっ♪でも、こんな遅くに
女のコ帰すの心配だし、いいってば。」
だから、女の”コ”って…。
「でも、明日も同じ服で出勤するわけには…」
「服あるよ。適当に着てけば?」
え…?
「いえ。でも…メイクも落としたいし…」
「メイク落としも化粧水も乳液もあるよ。
使えば?」
え…?