第43章 -運命-(及川徹)[前編]
「キライだなんて言ってないじゃない♪」
「ウチの貴重なシャトー・パルメ頼むくせに…」
「だって美味しいんだもん♪
まっつんだってほんとは嬉しいくせにー☆
でも、及川さん、男とはさすがに…」
「…話が飛躍しすぎだ、バカ‼︎」
及川さんはどうやら常連らしく、
バーテンさんは冷めた表情で、
及川さんをそっけなく扱っていた。
わたしがオレンジジュースを飲みながら、
そんな二人を見ていると、バーテンさんは、
「どうぞごゆっくり。」と、優しく微笑んで、
別のお客さんのところへ行ってしまった。
ステキな笑顔だなぁ…
思わずポワンとしてしまう。
「あぁいうのがタイプなの?
黒尾くんとはまた違うタイプだけど。」
「違います‼︎タイプとかじゃ‼︎」
わたしはまた大きな声で言い返してしまった。
「そんなに大きな声が出るってことは、
だいぶ酔いも冷めてきたのかな?」
「…っ⁉︎」
及川さんはそう言うと、
大きな手でわたしのおでこを触って、
優しい目をして見つめてきた。
酔いが冷めてきたのに、また赤面してしまう。
「も…もう大丈夫ですから‼︎」
そう言ったのに、及川さんは、
まだわたしのおでこから手をはなしてくれない。
プルルル…
「…!いいトコだったのに。
ちょっとゴメンね。」
でも、どうやら、
及川さんのスマホが鳴ったらしく、
及川さんはわたしの頭をヨシヨシと撫でると、
いったん席を外した。
な…なんだったのよ…⁈
でも、わたしもわたしで、
振り解こう思えばすぐにできたはずなのに、
なぜだかそれができなかった。
思わず脱力してしまう。
はぁ…
喉を潤したくて、グラスを見るけど、
オレンジジュースはもう残っていない。
ふと及川さんのワインに目をやると、
まだ少し残っている。
飲めないわけではないし、酔いも冷めた。
それにさっきの及川さんと
バーテンさんのやりとりからすると、
このワインはどうやらいいヤツらしい。
悪いと思いながらも、
わたしは一口ワインをいただいてしまった。
「美味しい‼︎」
「酔いは冷めたんですか?」
「…‼︎」
バツが悪くて思わずグラスから手をはなすと、
さっきのバーテンさんはクスクス笑っていた。