第43章 -運命-(及川徹)[前編]
「酔っ払いにワイン飲ますわけないでしょ!
そんなコトするのはただの物好きか鬼畜だけ‼︎」
「お待たせしました。」
及川さんがそう言うと、
ちょうどバーテンさんが来て、
当然のように及川さんの前にワインを、
そして、わたしの前に
オレンジジュースを置いた。
どうやら、本当に
オレンジジュースはわたしの分だったらしい。
「あの…?」
さっきキツく言ってしまった手前、
なんだか申し訳なくて、
思わず及川さんを見上げてしまう。
「”一杯付き合って”って言ったでしょ?
それも”一杯”!
それ飲んで、酔い冷ましなよ?」
及川さんは何も気にしていないかのように、
オレンジジュースのグラスに
自分のワイングラスをコツンとすると、
そのままワインを口に運んだ。
そんなに酔っているつもりはないけど、
はたから見るとけっこうな酔っ払いなのかな…。
まだほわ〜っとする思考回路で
そんなコトを考えながら、
ワインを飲む姿が絵になるなぁ…と、
つい及川さんを見つめてしまった。
「何?」
わたしの視線に気付いた及川さんが、
わたしを見てきたので、視線が合わさる。
「い…いえ‼︎何も‼︎」
「及川さんに見惚れてた♪?」
「ち…違いますっ‼︎」
図星すぎて恥ずかしい。
「早く飲んだら?」
及川さんはわたしがまだ口をつけていなかった
オレンジジュースのグラスに視線を投げた。
「あの…」
「なぁに?」
「ありがとう…ございます。
酷い言い方しちゃってごめんなさい。」
「…っ‼︎しおらしい檜原さんも可愛いな。」
「か…からかわないでください‼︎」
せっかく素直にお礼を言って謝ったのに、
及川さんはまた人を茶化してきたので、
わたしはフンとそっぽ向いて、
オレンジジュースに口をつけた。
サッパリしていて、ほわ〜っとした頭に
スーッと染み渡る感じがした。
「…美味しい。」
「そ?よかった。」
「及川さん…ワイン好きなんですか?」
無言はやっぱり気まずいし、
迷わず頼んだコトが気になって、
なんとなく及川さんに聞いてみる。
「まぁ、キライじゃないかな。」
「しょっちゅう来てんのに、よく言うわ!」
及川さんの答えに反応したのは、
わたしではなく、
さっきのバーテンさんだった。