第43章 -運命-(及川徹)[前編]
「そろそろ行こうか♪
遅刻すると岩ちゃんに怒られちゃうからね。」
真剣にわたしは及川さんを殴ろうとしたのに、
及川さんはそれをへらっと躱わし、
さっきまでのコトがなかったかのように、
仕事の話をしながら、お店に向かった。
な…なんだったのよ⁈
ダメだ…ペースを乱されてる…。
ちょっとイケメンだからって、
惑わされちゃダメ‼︎
わたしはふ〜っと深呼吸して、
お店の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい。」
「すみれちゃん!久しぶり〜♡」
いつもの落ち着く二人の声。
ご主人の岩泉さんと
奥様のひろみさんが出迎えてくれた。
「岩泉さん‼︎ひろみさん‼︎お久しぶりです〜‼︎」
先輩にこのお店を教えてもらって以来、
すっかり気に入ってしまったわたしは、
一人でも通うようになり、
いつのまにか岩泉さんやひろみさんと
仲良くなっていて、ここぞという接待でも
いつもお世話になっていた。
「すみれちゃん、働きすぎてない?大丈夫?」
「全然元気ですよ〜♪」
いつもひろみさんは
わたしの体調を気遣ってくれる。
ひろみさんのほうがお店やりながら、
岩泉さんを支えていて、大変なはずなのに
ひろみさんはいつも笑顔だ。
「今日も美味しいおうどん用意してるから、
たくさん食べてね♪」
「やったぁ♪」
”岩泉”の名物でもあるシメのおうどんは、
岩泉さんの奥様である
ひろみさんのご出身の香川の名産品。
ひろみさんが選び抜いた香川のおうどんを
岩泉さんが調理している。
「二人とも‼︎久しぶりの及川さんは無視⁈」
え…?
「あ⁈及川、なんでいるんだよ⁈」
「ほんとだー。今日は生憎満席よ?」
岩泉さんとひろみさんが、
今まで見たコトないくらい、
お客様を適当にあしらっている。
「もう‼︎今日はお客様だよ‼︎」
「あん⁈…‼︎もしかして、
檜原さんの接待相手って及川か⁈」
「…はい。あの…お知り合いですか?」
わたしは岩泉さんと及川さんを交互に見た。
「お知り合いってゆーか大親ゆ…
「ガキの頃からの腐れ縁だ!」
「岩ちゃん、ひどーい‼︎」
岩泉さんは絶妙なタイミングで、
及川さんのことばを遮った。
そういえば、及川さん、
お店入る前にも
”岩ちゃんに怒られちゃうから”って…。