第43章 -運命-(及川徹)[前編]
「ちょっと早く着きすぎちゃったし、
散歩でもしよっか?」
及川さんはわたしから
1円も受け取るつもりはないようで、
お店には入らずに、
スタスタ歩き始めてしまった。
「あの‼︎
わたし、お金の貸し借りイヤなんです‼︎
ちゃんと払いますから‼︎」
「別に貸してないし借りてないじゃん。
タクシー代払っただけ。」
「…‼︎それは屁理屈ですっ‼︎」
「も〜!それくらい、
”わぁ♡及川さん優しい〜♡”って、
キュンキュンしとけばいいじゃない!」
「タクシー代くらいでキュンキュンしません‼︎」
「じゃあ、さっきタクシーで手繋いだのは?」
「…っ⁈」
思わずさっきのコトを思い出し、
不覚にもまた赤くなってしまう。
及川さんが冗談でしたのはわかってるし、
別に及川さんのコトが好きなわけでもない。
でも、やっぱり、
男の人に急にあんなコトをされたら、
ドキドキしてしまう。
「あっれ〜?やっぱキュンキュンした?」
「し…しませんっ‼︎そもそも‼︎
なんであんなコトしたんですか⁈
取引先の人間で遊ばないでください‼︎」
「遊んでたわけじゃないんだけどなぁ。」
…⁈
苦笑いしながら、
及川さんが意味深なことばを発した。
それってどういう意味…?
「じゅ…十分遊んでますっ‼︎
あ!黒尾くんにタクシーで来ちゃったって…」
そうだ…先に出てしまったコトを、
先に言ってと言ったきり、
黒尾くんに連絡していない。
「さっきタクシーの中から連絡しといた。
そんなに黒尾くんが気になる?」
「え…?」
ずっと歩いていた及川さんが立ち止まり、
わたしをジッと見つめた。
「檜原さんて、なんで黒尾くんの前だと
あんなクールビューティぶってるの?」
「な…⁈
別にクールビューティじゃないです‼︎」
「あの黒尾くんが、
檜原さんの気持ちに気付いてないなんて、
おかしいなって思ってたんだけど、
今日の檜原さんの態度見て、超納得。」
「勝手に決めつけないでください!」
わたしはまた及川さんに平手打ちをしようと
手が出てしまったのだけど、
今日の及川さんはそれを軽々と受け止めた。
「そっちの檜原さんのがオレは好みだな♪」
とんでもないことばで…。