第43章 -運命-(及川徹)[前編]
「………NEKOMAデザインの檜原と申します。
よろしくお願いします…。」
上司に紹介され、
わたしはやむを得ず…やむを得ず…
名刺を差し出した。
「青西建設の及川です♪
こちらこそよろしくお願いします♪」
青西建設の応接室で対峙しているのは、
あちら様も突然担当変更します‼︎
とか、そんな都合のいいコトはなく、
もちろんあの…及川さんだった。
「ふぅん…檜原すみれさん…ていうんだぁ。」
「…っ‼︎…何か?」
う〜〜っ‼︎なんか悔しい…。
名前、教えたくなかったのに‼︎
「ううん♪
今日は教えてくれるんだなぁ…って思って♪」
…⁈⁈
「なんだ、檜原、及川さんと面識あったのか?」
「い…いえ‼︎
あの…さっそく打ち合わせ始めましょう!
プロジェクターお借りしますね。」
上司や黒尾くんたちが
不思議そうにわたしたちを見てきたので、
わたしは慌ててプロジェクターの設定を始めた。
し…仕事なんだから‼︎
あんなヤツに惑わされてないで、
しっかり集中しなきゃ‼︎
「コンセント、こっちですよ。」
わたしがしゃがんで
コンセントの差込口を探していると、
隣にしゃがんで教えてくれたのは、
及川さんだった。
「…‼︎ありがとうございます。」
わたしは思わずキッと睨みつけてから、
営業スマイルでお礼を言った。
「そんな怖い顔しないでよ♪」
「ちょっ…⁈」
及川さんはニッコリ笑顔で、
わたしの手を包むようにして、
コンセントをサッと取ってしまった。
あっけにとられて、
思わずそのまま及川さんを見つめてしまう。
「檜原さん、こっちOKです。」
「…‼︎あ、ありがとう。」
黒尾くんの声で我に返り、
及川さんを無視して、席に座る。
「じゃあ、前回の続きからね…」
及川さんは、わたしの正面に座り、
クスッと笑ってわたしを一瞬見たあと、
今までとは別人のように話し始めた。
黒尾くんから聞いていたし、
事前資料を見ても、認めたくないけど、
及川さんてスゴイ…とは思っていた。
だからこそ、負けたくないというか、
仕事デキないと思われたくなくて、
いつも以上に下調べをして、臨んだのだけど…
わたしは、及川さんの話に
ただただ圧倒されていた。