第43章 -運命-(及川徹)[前編]
-すみれside-
「ねぇ‼︎なんでわたしなの⁈」
「そりゃ、檜原大先輩が適任だからです!」
「他の人でも大丈夫でしょ‼︎」
patisserieHYBAの新店
お披露目パーティーの翌日、
わたしは会議室で、
後輩の黒尾くんに猛抗議をしていた。
黒尾くんの新規の案件が
忙しくなってしまい、
青西建設のプロジェクトを
誰かに引き継ぐ…
それは上が決めたことなのだけど、
よりによって、黒尾くんは、
後任にわたしを指名してきたのだ。
「あちらの担当ってあの及川さんでしょ?
やりたいコ、いっぱいいるでしょうが‼︎」
「そりゃいるけど、あの人、
あんなでも、仕事には厳しいから、
そんなミーハーじゃ仕事になんなくて、
ウチ、契約切られちゃいますよ。」
青西建設だけは、絶対関わりたくない‼︎
しかも、よりによって、
昨日あれだけ言いたい放題言ってしまった
あの及川さんが担当…。
絶対担当になるわけにはいかない。
「それに、ウチから担当変えを
お願いするんだから、
せめてオレより役職上の人じゃなきゃ…」
「チーフデザイナーも他にもいるでしょ?
わたし、女のコにやっかまれるのイヤよ。」
今年の4月にチーフデザイナーになったけど、
女性ではまだわたしだけ…。
それだけで微妙に目立ってしまうのに、
青西建設の担当までして、
あまり”女”を敵に回したくない。
「檜原さんなら、皆納得ですって。
それに、オレ、及川さんに、
女性チーフデザイナーに
変わりますってもう言っちゃったし。」
「えぇ⁈」
「檜原さん‼︎お願い‼︎お願い‼︎
一生〜のお願いっ‼︎しまっす‼︎」
追い打ちを掛けるように、
黒尾くんはガバッと頭を下げた。
はぁ…黒尾くんには甘い自分がイヤになる。
でも、黒尾くんの頼み…やっぱり断れないよ。
「じゃあ、早く出して?」
「何を?」
「引き継ぐんでしょ?資料出して。」
「檜原さんっ‼︎助かります‼︎」
会議室で黒尾くんと二人きり…
前なら密かにドキドキしていたのだけど、
今日はそんな気持ちにならなかった。
なんでだろう?
あのナンパ男の話をしたからだろうか?