第43章 -運命-(及川徹)[前編]
パーティーは立食形式で、
patisserieHYBAの灰羽さんの話が始まると、
あずみとマッキーは目の色を変えて、
前に行ってしまった。
オレは後ろのほうで話を聞きながらも、
たまに声を掛けられ、名刺交換をする。
もちろん、女のコばかりじゃない。
パーティーとはいえ、ここは仕事場。
関連会社の連中がわんさか来ているのだから、
コネクション作りには最適な場だった。
名刺交換がひと段落して、
ドリンクのお代わりを取りに行くと、
さっきの受付のお姉さんが、
ちょうど廊下へ出て行くところだった。
受付をしていたし、
恐らくNEKOMAデザインか、
patisserieHYBAの関係者なのだろう。
オレは、なぜだか彼女に惹かれ、
ドリンクは受け取らず、
廊下に出た彼女を追い掛けた。
でも、廊下へ出ると彼女はもういなくて、
少し遠くから、
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「灰羽さんのサインもらっちゃった♪」
「リエーフの〜⁈
あずみはそんなん欲しいのか?」
「鉄朗は灰羽さんの
素晴らしさをわかってないんだよ!
新作のケーキも最高だったぁ。」
「あずみ、なるべく花巻さんといろよな?
一人になるなよ?」
「え…?」
「オレ、今日は一緒にいてやれねーからさ。」
「…っ。ごめん、勝手に来ちゃって…」
「いや、来てくれたのは嬉しいけど。」
「ほんと?
仕事してる鉄朗の観察も楽しみなの♪」
「おい。それはやめろって…」
はぁ…声だけでもわかる。
あずみと黒尾くんだ。
聞くもんじゃないな。戻るか…
ガタンッ…
「…⁈」
柱が大きくて気付かなかった。
柱の陰に隠れて音を立てたのは、
廊下に出て見失ったと思った
受付のお姉さんだった。
「覗き?悪趣味だね。」
「ち…違うわよ‼︎」
「あのさ、声、大きいよ?」
放っておけばいいのに、
彼女の手を引いて、
オレはいったん店の外に出た。
「ちょっ…何⁈」
外に出ると、彼女はオレの手を振り払った。
…気が強いなぁ。
思わず苦笑いしてしまうけど、
オレは大事なコトを彼女に聞いた。
「あずみに嫉妬?」
彼女は目を見開いて、
オレを睨みつけていた。