第42章 -運命-(黒尾鉄朗)
「すみれ‼︎」
でも、わたしのほうが先に出たのに、
会社を出た所で、あっけなく
及川さんに追いつかれてしまい、
腕を掴まれてしまった。
「及川さん、ふざけすぎです‼︎」
さっき…エレベーターの中で、
唇は触れなかった。
もう中学生の子どもじゃない。
キスはしていないんだし、
キスの一つや二つでとやかく言うな…
そう思われるかもしれないけど、
尊敬してる会社の先輩だと思うと、
落ち着いていられなかった。
「急にあんなことしたのは悪かったよ。」
及川さんはわたしの腕を掴んでいた手を
スルスルと下ろし、わたしの手を握った。
「でも…ふざけてないよ。
今日も…この間も…。」
「え…?」
「オレはずっと真剣だよ。」
「及川…さん…?」
「すみれのコトが好き。」
及川さんはジッとわたしの目を見つめていた。
真剣な眼差しで…。
「…………。」
「何も言ってくれないんだね。」
わたしが答えられないでいると、
及川さんは苦笑いしながら口を開いた。
ちゃんと…答えなきゃダメだ…。
「及川さんは…ステキだし…尊敬…してます。
でも…恋愛の好きとは違って…。
だから…あの…ごめ…」
「スト〜ップ。」
「…っ⁈」
及川さんは突然わたしのことばを遮り、
わたしの手を握っていた手を、
今度はわたしの唇に当てた。
「及川さん、自分から告白して
フラれたコトないんだ。
だから、すみれにも”ごめんなさい”
言われるわけにはいかないの。わかる?」
「え…?」
意味…わかりません…。
「すみれ、黒尾くんのコト好きでしょ?」
「な…⁈えっ⁈あの…は…い…。あ…。」
思わず素直に頷いてしまうと、
及川さんは呆れるように笑っていた。
「さっきのは告白じゃなくて、オレの独り言。」
「及川さん…」
「だから、何も言わなくていいし、
何も気にしなくていい。
すみれは悩むコトないよ。」
及川さんはそう言うと、
わたしの頭を優しく撫でて、
お疲れ〜と言って先に駅に行ってしまった。
「あ、そーだ!
黒尾くんがモテるのはほんとだから。
ま、及川さんには及ばないけどね。
早めに行動したほうがいいと思うよ?」
わたしに恋の助言を残して…。