第42章 -運命-(黒尾鉄朗)
-花巻side-
「ただいま戻りました〜♪」
「悪かったな、急に頼んで。」
「いえ♪全然♪夜久さんが、”貸し10で”って♪」
「マジか⁈」
檜原も忙しかったのはわかってたのに、
朝一で頼んでしまったから、
嫌味の一つでも言われるかと覚悟していたのに、
当の檜原はえらくご機嫌だった。
「ほんとは夜久さんは”貸し1”って
言ってくれてたんですけどね。
わたしが増やしておきました♪」
「勝手なコトすんなよ〜。」
「そんなこと言っていいんですか〜?
せっかく花巻さんにお土産買ってきたのに♪」
檜原はオレのため息に怯むことなく、
デスクに置いていた紙袋を
オレの目の前に出してきた。
「お‼︎patisserieHYBAじゃん‼︎
何買ったんだ?」
「シュークリームで〜す♪」
NEKOMAデザインの近くにある
patisserieHYBAはけっこう有名で、
特に人気のある限定シュークリームは
オレもまだありつけていなかった。
「おぉ‼︎よくやった‼︎」
「じゃ、今日はもう帰っていいですか♪?」
「いいぞ♪…なわけねぇだろ?」
「えー?」
つぅか、マジで何かあったか?
いつもなら、カフェラテ奢れ‼︎
くらい言ってくんのに…
「にしても、よく買えたなぁ。
オレでも買えたコトないぞ。」
「店長さんが黒尾さんの後輩だったので、
特別に…って。」
「黒尾…?」
「い…いえ‼︎あ…食べましょうよ‼︎
わたし、手洗ってきます。」
なんだ?あいつ、男でもできたか?
もしくは好きな人…とか?
「ねぇ、マッキー。」
「おわっ‼︎及川⁈」
そそくさと出てった檜原と入れ違うように
背後から及川が現れた。
「すみれ、ご機嫌だったね。」
及川はデスクに置いてある
patisserieHYBAの紙袋に視線を落とした。
「及川の分はねーぞ?」
「いらないって。
それよりすみれ、何かあったの?」
「檜原、今はオレの部下なんだけど?」
相変わらず檜原のこと、よく見てるな。
「限定シュークリーム買えたからじゃん?」
「へぇ…」
どうやら、檜原がご機嫌に見えるのは、
オレだけじゃないらしい。