第42章 -運命-(黒尾鉄朗)
思わず及川さんを見上げた瞬間、
わたしは及川さんに抱き寄せられていた。
「あの…⁈」
及川さんはさっきみたいに肩を抱いてきたり、
ふざけた発言はいつもだけど、
こんなことは初めてだった。
「及川さんっ‼︎…ふざけすぎです‼︎」
「ふざけてないよ。」
「…っ⁈」
及川さんの力がどんどん強くなる。
スーツを着ているとシュッと細身なのに、
わたしの力ではとても抵抗できない。
「及川さんっ‼︎ココ、エレベーターですよ!
誰か来ちゃったら…⁈」
「見せつけてやればいいじゃない♪」
「な…何言って⁈
監視カメラもあるんですよ‼︎」
エレベーターに監視カメラは付き物。
管理人さんに見られている。
「だーいじょうぶ♪落ち着いて?
この位置だとオレの背中が死角になってるから、
すみれがいるコトはわからないよ。」
「そ…そういう問題じゃ…」
やたら自信満々の及川さんのことば…
「…‼︎及川さん……前科者ですね?」
「なんのコト?」
少しは怯んでくれるかと思ったのに、
及川さんは悪びれた様子もなく、
わたしを抱き締めたまま、
わたしの頭を優しく撫でていた。
「監視カメラの位置とか詳しすぎです‼︎
誰とエレベーターで
イチャイチャしてたんですか?も〜(笑)」
少しでもいつものふざけた空気に戻したくて、
わたしは必死で明るく話した。
でも、気持ちばかりが焦ってしまう。
誰かに見られちゃったら…どうしよう⁈
「誰とも。強いて言うなら、
すみれとイチャイチャするために
日々監視カメラに映らない角度を
研究してたかな♪」
「…っ⁈お…及川さんっ…
もう…着きますから…」
どうしよう…恥ずかしすぎて、
さっきみたいに強く言えない…。
「じゃあ、1つだけ正直にこたえて?」
及川さんはわたしの頭を撫でるのをやめ、
両手でギュッと抱き締めて、
わたしの耳元で囁くように聞いた。
「もう一度聞くよ?
黒尾くんとはどういう知り合い?」
「あ…あのカフェで…」
わたしは今の状況が恥ずかしすぎて、
観念して正直にこたえた。
及川さんはなんでこんなコトしてまで、
黒尾さんのコトを聞きたかったのか…
その時のわたしは全くわかっていなかった。