第42章 -運命-(黒尾鉄朗)
「はい。ココ、会社から近くて。
気分転換しによく来るんです。
貴方も…?あ…えっと名前…」
ラッキーだ。名前まで自然に…。
彼女はオレにも聞こうとしたが、
名前を知らないオレを呼び掛けるのに困り、
彼女から名前を聞いてくれた。
「すみません。
名前言ってませんでしたね。
黒尾です。オレはこの近くで商談があって…」
そう言って、怪しまれないように名刺を渡す。
「あ!わたしも。檜原と申します。」
オレが渡したからか、
彼女も名刺をくれたので、
渡してくれた名刺に目を落とす。
檜原すみれ…青西建設株式会社…
「青西建設?」
「はい…何か?」
「いや、オレの商談先、青西建設さんなんで。」
「そうなんですね!あ!ほんとだ‼︎
NEKOMAデザインさん、
ウチでよくお世話になってますよね。」
偶然の出会いからの思わぬ共通点…
オレ…めっちゃツイてるかも!
「いえ、こちらこそ、青西建設さんには
いつもお世話になってます。」
「いえいえ、こちらこそ。」
「「あははっ…(笑)」」
仕事だけど、
ちょっとした共通点があるだけで、
一気に距離が縮まった気がする。
「黒尾さんは設計士さん…なんですか?」
「まぁ、そんなもんですね。」
「じゃあ、ウチの担当からは
色々と無茶言われるんじゃないですか?」
檜原さんに言われ、
ふと頭をかすめる青西建設の担当…
「ま、たしかに…」
「あ!認めましたね〜(笑)
今、担当してるの誰なんだろう?
わたしも知ってる人かなぁ…」
「知ってるんじゃないですか?
あれだけイケメンだったら、
社内でも有名だと思うんですけど…」
頭に思い浮かべるあの担当…
たまにウチの事務所に来るだけで、
女性社員たちは目がハートになる。
「え…?イケメン…?」
「あっれー?すみれじゃん♪」
「…っ⁈」
オレの頭の上からやたら軽い男の声がする。
でも、どこか聞き覚えがあるこの声…。
思わずハッと振り返る。
「会社の近くで何逆ナンしてるのー?」
「げっ⁈及川さんっ⁈」
「はっ⁈黒尾くんっ⁈」
檜原さんに声を掛けた男と
同時に反応したのは…
檜原さんではなく、オレ…だった。