第38章 -月夜-(月島明光)

「どした？」


わたしが真っ赤になって硬直していると、
月島さんはわたしの顔を
さらに覗き込んでくるので、
わたしは慌てて月島さんから離れてしまう。


「うわっ…えっ⁈あ…‼︎すみませんっ‼︎」


「そんな離れんなよー。悲しいじゃんか。」


「だ…だって…‼︎」


「”だって”…なんだよ？」


月島さんはマジメに聞いているようで、
目の奥はニヤリと妖艶な輝きに満ちている。


うぅ…この月島さんの目…知ってる〜。


「ち…近すぎて…恥ずかしいです。」


「はぁ？だってー。」


「”だって”…なんですか？」


よし‼︎お返しだ‼︎と言わんばかりに、
わたしも月島さんに聞き返す。


「檜原、オレの顔忘れたんだろ？」


でも、月島さんはまたグイッと
わたしを引き寄せ、顔を近づけてきた。


「…っ⁈か…顔は忘れてませんっ‼︎
こ…声です‼︎
それに、忘れたんじゃなくて…」


「ふぅん…」


わたしがテンパっていると月島さんが
ギリギリまでわたしに顔を近づけてくる。


…っ⁈えっ⁈ウソ⁈キス⁈⁈


「じゃ、コレで思い出した？」


キスされるかと思って思わず目を閉じると、
耳に直接聞こえる月島さんの声…


月島さんはキスをするのではなく、
わたしの耳元で囁いていた。


「ぁ…っ‼︎えっ…つ…月島さんっ‼︎」


や…やだ…どうしよ…


不意打ちで耳元で囁くとか…ズルイ‼︎


「ははっ♪檜原、もしかして耳弱い？」


そう言うと月島さんはわざと
ふぅっとわたしの耳元に
息を吹きかけてくる。


「や…っん」


「(やべ…可愛すぎんだろ…)」


「月島さんっ‼︎」


わたしは恥ずかしくて、
ちょっと拗ねながら、
今度こそ本当に月島さんから離れた。


「わりぃわりぃ。
檜原があまりにも可愛かったからな。」


「もーいーですー。
そんな取って付けたように言われてもー。」


忘れちゃダメ…浮かれちゃダメ…
月島さんは皆に優しいんだよ…


「本心なのになぁ。」


「え？」


自分に言い聞かせていたので、
わたしは月島さんのことばが聞こえなかった。


「なんでもねぇ…いや、後で言うわ。」


「…？はい。」


「それより腹減んない？
オレの行きつけの店あんだけど、
そこでちょっと飲まねー？」