第34章 -強引-(黒尾鉄朗)

オレのそのことばに嬉しそうにニッコリ笑ったすみれの顔を今やっと思い出した。


まいったな…


「思い出したのか？」

「あぁ。つぅか、オレ、そんなマメじゃねーし。あいつも行きたいなら、言えばいいじゃねーか！」

自分から”行くか！”と言ったのに、今の今までオレはすっかり忘れていたことを棚に上げ、この場にいないすみれに文句を言う。

「まぁ、マメっていえば、大将のほうがマメそうだよな。マメっていうか、外面の良さは天下一品だしな。」

「は…⁈大将？大将って…」

やっくんのことばに、オレは記憶を駆け巡らせる。

オレが知ってる”大将”は1人しかいない。

「そりゃ…

「黒尾さーん‼︎はぁ…はぁ…‼︎てゆぅか‼︎」

やっくんのことばを遮り、リエーフがものすごい速さで走ってきて、深呼吸をしてから、続きのことばを紡ぐ。

「すみれ先輩、戸美の主将と付き合ってたんですか⁈」

「は⁈」

とんでもないことばがリエーフの口から放たれた。

「はぁ？リエーフどういうコトだよ？」

「「……。」」

「だって見たんすもん‼︎すみれ先輩、浴衣着て、戸美の主将と歩いてました！」

興奮して喋るリエーフと、どこか気まずそうな海とやっくん…


マジなのか⁈


「檜原な、大将に何回かデートに誘われてたらしい。」

は⁈なんだそれ⁈聞いてねーぞ？

ぞくぞく出てくる衝撃の事実にさすがのオレもことばが出なくなっていた。

「練習試合とか檜原よく観に来てたし、試合会場でも顔合わすし…ちょいちょいアプローチされてたみたいでな？」

やっくんに続いて海が言う。

「へぇ。すみれやるじゃん。モテるんだな。」

オレは顔に出さないように意識して、なんとも思っていないように答えたが、内心気になってしょうがない。

つぅか、いつだよ⁈オレが見てる限り、すみれと大将は話してなかったぞ…。

「クロ、ゲームオーバー近そうだよ？」

「あん？」

研磨の視線の先を見ると、
浴衣姿のすみれと大将の姿があった。

…‼︎手まで繋いでやがるっ。

「ちっ…」

こんなになるまで、行動できない自分に心底腹が立つ。

「わりぃ、オレ、今日パス！」

オレはそれだけ言って、すみれたちを追いかけた。