第33章 -笑顔-(武田一鉄)
〜4年前〜
今日は予定より遅くなったなぁ…
会議資料がなかなかまとまらなくて、
いつもより帰宅時間が遅くなり、
近道するため、
普段は通らない公園に入ると、
ベンチに見覚えのあるシルエット…
あれ…?すみれちゃん…?
あれからすみれちゃんとは、
連絡を取り合うようになり、
月に2、3度会っていたが、
今日は特に約束をしていない。
でも、この公園は
彼女の職場からも近いから、
偶然いてもおかしくないか…。
…♪
悪戯心に火がつき、
ボクはそっとすみれちゃんに
近づくことにした。
「わっ‼︎‼︎‼︎」
「きゃっ‼︎い…一鉄さ…ん…?」
驚いて振り返ったすみれちゃんの目には
涙が溢れていた。
「ど…どうしたの⁈ゴメン‼︎
そんなにビックリした⁈」
ボクが慌てていると、
すみれちゃんは涙を拭いながら、
首を横に振った。
「すみれちゃん…何かあったの?」
「な…なんでもないですよ。
変なトコ見られちゃったなぁ。」
涙を拭きながら、明るく言うが、
明らかに嘘を言うすみれちゃん…。
すみれちゃんがそう言うなら、
心配だけど、無理強いはよくないかな…
「そうですか?
今日は夜勤じゃないんですね。
ボクは今日は会議資料を…」
ボクはすみれちゃんの隣に座り、
何気ない話を続けた。
しばらくボクの話を
黙って聞いていたすみれちゃんは、
だいぶたったところで、
ポツリポツリと、
泣いていた理由を話し出した。
「今日…ね…
わたしが初めて担当した患者さんが…
亡くなったの…。
梅さんていう…
80過ぎたおばあちゃんなんだけど…
本当に病気なのかって思うくらい
梅さん…毎日元気で笑顔が可愛い
明るいおばあちゃんで…
新人のわたしを
いつも励ましてくれて、
すごく可愛がってくれて…」
すみれちゃんはそこまで話すと、
また涙ぐんでしまう。
ボクは口をはさまず、
ジッと黙って彼女の次のことばを待った。
「わたし…梅さんに毎日励まされたから、
辛くても頑張れて…
でも…今朝…容態が悪化して…
せ…先生たちが…頑張ったんだけど…」
涙ぐんでいたすみれちゃんの目から
涙がポロポロこぼれ落ちてしまう。