第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
「”浴衣着てくれてんじゃん”しか…
言ってくれてなかったもん…」
「いや…まぁ…それはそうだけど…」
んなこと…
恥ずかしくてすぐ言えっかよ…
「…ごめんね。変なコト言って。
わたしのほうが年上なのに、
ちょっと子どもっぽかったよね。
人混み嫌いなの、考えてくれてたの…
すごい嬉しかったよ。」
すみれはそう言うと、
スッとオレから離れようとした。
「おいっ‼︎」
でも、オレはすみれを離さなかった。
「可愛いって!すんげぇ可愛いっ!
つぅか、オレが見惚れてたの、
ちょっとは気付けよな?」
「え…?」
はぁぁ…やっぱ気付いてねぇのかよ?
「年も関係ねぇし、
浴衣の色なんかもっと関係ねぇ!
つぅか、こないだ見てたのは、
そのコらじゃなくて、あくまで”浴衣”‼︎
すみれの浴衣姿見たかっただけ!」
「鉄朗…くん…?」
オレはもう一度強く
すみれを抱き締め直した。
「可愛い…すみれ、すんげぇ可愛い。」
「え?ぁ…っ…」
「くくっ…そんな照れてくれるんなら、
もっと早く言えばよかったな。」
「鉄朗くんっ‼︎」
今度は照れたすみれが、
真っ赤な顔をオレに向けていた。
……チュ。
「な…っ⁈」
「あれ?キスしてって合図かと思った♪」
オレはすみれの頭をポンとして、
花火セットの袋を開けた。
「ほら!花火大会始めるぞっ!」
「うんっ!」
オレとすみれは子どものように
2人ではしゃぎながら、
たくさんの花火をした。
あっという間に花火はなくなり、
残るは線香花火のみ。
「どっちが長く持つか競争しよ?」
「おう。」
2人でしゃがみ込み、同時に火を付ける。
「なぁ?オレが勝ったら、
すみれからキスして?」
「えっ?あ…」
オレは線香花火よりも、
すみればかりを見ていて、
正直どちらの線香花火が
先に落ちたのか見ていなかったのだが…
「落ちちゃった…」
そのことばと同時に、
すみれはオレの浴衣の裾を引っ張り…
「鉄朗くん、ありがとう。
来年も…2人だけで花火大会したいな。」
…チュ。
ほんとにオレにキスをしてくれた。
---End---