第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
「鉄朗くん⁈どこ行くの⁈」
花火大会の会場から逆流しているのだから、当然オレたちはどんどん人混みから離れ、乗り込んだ電車も空いていた。
「どこって…まぁ、着きゃわかるって。」
「花火大会は⁈」
「ん?花火大会はするぞー?」
「でも‼︎今日の花火大会って
さっきのトコしか…」
「少し落ち着けって。」
すみれの質問攻めが止まらない。
普段落ち着いてるすみれの
意外なテンパり具合に、
オレは思わず心の中で笑ってしまった。
「ほら、いったん落ち着けって。
ひっひっふぅ…ひっひっふぅ…」
「…っ⁈それちがーーう‼︎」
オレがからかうと、
ぷぅっと頬を膨らませ、
子どものような表情をするすみれ。
可愛らしくて思わず心の中で笑ってしまう。
「はいはい。ほら、クールダウンな?」
すみれの胸元の帯から、
扇子をスッと抜き出した。
すみれの胸の膨らみを
一瞬だけど、指先に感じるのを忘れない。
やべぇ…やっぱ浴衣いいかも。
オレは邪心を悟られないように、
すみれの扇子ですみれを仰いだ。
「ねぇ、もしかして音駒に向かってる?」
一度乗り換えをし、
また電車に乗り込むと、
さすがにバレてしまったらしい。
すみれはズバリ言い当てた。
「ご名答〜♪」
すみれは今は別のトコで
一人暮らしをしているが、
オレもすみれも音駒は地元だ。
「音駒川の花火大会は
もう終わったでしょ?」
「あぁ。だから、いいんじゃん。」
「いいって何が?」
「もうちょっと待てって。」
音駒駅にやっと着いたので、
すみれの手を引いて目的地に向かう。
いい感じに時間もたっていたので、
空もだんだん暗くなってきていた。
「すみれ、そこ気をつけろよー?」
さっきすみれが言った
音駒川の土手に着いて、
補正された道を歩いていたが、
オレはすみれが転ばないように
ゆっくり歩いた。
「ありがと…。大丈夫だけど…」
場所は言い当てたすみれだったが、
さすがにオレの意図には
気付いていないらしい。
すみれはまだキョトンとしたままだった。