第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
③黒尾鉄朗×年上彼女
「悪りぃ。待ったか?」
花火大会会場の最寄り駅。
人混みでごった返す改札を駆け抜け、
すぐに見つけた大好きな
彼女の元にオレは駆け寄った。
「待った〜‼︎10分遅刻‼︎
もう‼︎鉄朗くんが
どうしてもって言うから、来たのに…。」
「悪りぃ悪りぃ。
でも、ちゃんと浴衣着てくれてんじゃん。」
すみれは生成の地に
淡い紫の朝顔と撫子が描かれた
清楚な大人っぽい浴衣を着ていた。
所々淡いピンクも入っていて、
大人っぽいのに可愛さもある浴衣…
すみれによく似合っていた。
人混みが何より嫌いなすみれを
花火大会に誘ったのは1週間前…。
デート中に浴衣姿の
女のコたちとすれ違って、
すみれの浴衣姿が見たい…
そう思った。
そしたら、タイムリーなコトに
その日のデート帰りに花火大会のポスターを駅で見つけて、
オレはすぐにすみれを誘った。
渋るすみれだったが、
珍しく渋々OKしてくれて、
オレは正直驚いていた。
すみれはイヤだと思った時は、
本当に頷かないし、
絶対意見を曲げないから。
「鉄朗くん?どうしたの?」
オレがすみれに見惚れていると、
スネていたはずのすみれが
心配そうにオレの顔を見上げていた。
「あ…汗…。
急いで来てくれたんだね。」
すみれは浴衣に合わせた
籠バッグから、ハンカチを出し、
手を伸ばしてオレの耳元の汗を拭いた。
「おい…!こんなトコですんなって。
ハンカチ、汚れんぞ?」
オレは照れ隠しですみれの手を掴み、
そのまますみれの手を下ろさせた。
「はいはい。ごめんね。
ほら、行くんでしょ?人混み、
ちゃんとリードして歩いてね?」
オレの照れ隠しに気付いていたのか、
悔しいくらい余裕のすみれは、
花火大会の会場に向かう、
人混みのほうへ歩き出した。
「おう。でも、そっちじゃねーよ。」
歩き出したすみれの手を取り、
すみれを引き止めると、
案の定すみれはポカンとしていた。
「え?でも…」
「ちゃんとオレがリードすっから。
ほら、電車乗るから定期出せー?」
オレはすみれの手を引き、
もう一度改札の中へ戻った。