第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
「悪りぃ。」
檜原に一応謝ったが、
オレは檜原の手をはなさなかった。
「ココでも少しは花火見えるだろ?」
「う…ん。」
檜原は下を向いたままだった。
「あぁ…なんだ?なんつぅの?
イヤかもしんねーけど…」
「え⁈」
ハッとしたように檜原は顔をあげ、
オレの顔を覗き込んできた。
「今日だけでいいから…
オレと一緒にいてくんねーか?」
オレはすみれから視線をそらさず
ジッと見つめ続け、
すみれの手をさらに強く握った。
「黒尾くん…⁇」
「なぁ?さっきの質問…
檜原って好きな人とかいんの?」
「えっと…あの…」
だいぶ離れたのに、
花火のあがる音だけは、
風に乗ってよく聞こえていて、
元々小さな声の檜原の声は、
たまに花火にかき消されてしまう。
でも、檜原は困って泣きそうな表情で
コクンと小さく頷いた。
「…そうだよな。」
オレは檜原の表情を見て、
握っていた檜原の手をはなそうと、
そっと力を緩めた。
「や……やだっ‼︎」
…⁈
だが、その手をはなさなかったのは、
意外にも檜原のほうだった。
「あ…あのっ‼︎」
「なんだ?」
内心テンパっていたが、
オレは表情には出さずにこたえた。
「く…黒尾くんは…その…
好きな人…いる…んですかっ⁈」
………⁈
「くくっ…なんで急に敬語なわけ?」
珍しく檜原の大きな声…
それに、檜原の言い方が可愛くて、
オレは思わず笑ってしまった。
「え⁈あ…そんな笑わなくても‼︎」
街灯に照らされた檜原の顔は、
さっき見た時よりも真っ赤になっていた。
「いるけど?」
「…っ⁈え⁈あ…そ、そうだよね。」
ニヤリと笑ってこたえると、
今度は檜原が
オレの手をはなそうとしたので、
オレはそのまま、
何も言わずに檜原を抱き締めた。