第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
「クロ?」
名前を呼ばれてハッとする。
研磨が怪訝そうな顔をして、
オレを見上げていた。
「あ?なんだ?」
「クロ、機嫌悪そう。」
「そんなことねぇよ。」
相変わらず鋭い研磨にヒヤッとして、
オレは意識的に表情を和らげた。
「ならいいけど。
オレ、先に帰るね。」
「は⁈花火観てかねーの?」
「リンゴ飴買えたからもういい。」
そう言った研磨は
本当に帰ってしまった。
「黒尾ー‼︎何やってんだ?行くぞ‼︎」
やっくんに呼ばれ、
オレは皆のほうに行ったが、
結局檜原の隣は
いつのまにか
リエーフがキープしていて、
オレの隣は最初に声を掛けてきた
檜原と1番仲の良いちえりだった。
「あの2人、
付き合ってるみたいだよねー♪」
「は⁈」
ちえりが指を差していたのは、
前を歩いているリエーフと檜原。
「仲良さそうだし、お似合いじゃない?
ハーフだからかな?
リエーフくん、積極的だし。」
は⁈何言ってんだよ?
リエーフと檜原だぞ⁈
「へぇ。」
でも、なんとも思っていないように
相槌を打った。
「リエーフくん、
すみれに猛アタックしてるもん。
すみれって男のコと
あんまり話さないけど、
あれはオチるかもね〜。」
…んだよ、それ…。
「すみれ先輩、危ない‼︎」
「え⁈きゃ…‼︎
ありがと、リエーフくん。」
前を歩くリエーフと檜原を見ると、
ちょうど向かいから来た人と
ぶつかりそうになった檜原を
リエーフが支えていて、
リエーフはそのまま手を繋いでいた。
なぜだかオレの心がざわつくが、
オレは気付かないふりをする。
「あら♪ラブラブ♪いいのー?」
煽るようにちえりが
ニヤリとしてオレを見た。
「せーっかくわたしが声掛けて、
一緒に花火見れるのに。」
「別に。頼んでねーよ。」
「ふぅん。そんなこと言うんだ?
リエーフくんにすみれ持ってかれても
知らないからねー?」
そんな話をしていると、
他の奴らが場所を確保していて、
オレらは一箇所に集まった。
さっきのちえりのことばが気になり、
オレは檜原のほうへ行った。