第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
②黒尾鉄朗×クラスメイト
「あー!クロ‼︎」
バレー部恒例の花火大会当日、
ちらほら部員が集まってきたので、
そろそろ出発しようと思っていると、
バレー部のむさい連中の声ではなく、
女の声で名前を呼ばれた。
その声のするほうを振り向くと、
クラスの女子が浴衣姿で4人いた。
「お〜。おまえらも来てたの?」
「うん!ね、浴衣カワイイ〜?」
「あー。いいんじゃね?」
”カワイイ?”と聞いてきた女子ではなく、オレは別の女子をチラリと盗み見た。
同じクラスの檜原すみれ。
檜原は比較的おとなしいほうだが、
話し掛ければ普通に話してくれる。
でも、オレと話す時は
絶対目を合わせない。
他の奴と話す時は、
もっと楽しそうなのに…。
そんな檜原は、
淡いピンクの小花柄の浴衣を着ていて、
檜原によく似合っていた。
「バレー部集まってるの?
じゃ、ウチらと一緒に行こーよー♪」
最初に声を掛けてきたちえりが言う。
「おぉ!いいぞ。
女子がいたほうが華やかだしな。
んじゃ、行くかー?
あと、来てない奴は…」
願ったり叶ったりの申し出に、
オレは本心を悟られないように了承し、
人数を確認するふりをして、
さりげなく檜原の横に行った。
「浴衣…似合ってるな。」
「えっ⁈あ…えっと…‼︎
そ…そんなことないよっ‼︎」
「バーカ‼︎そういう時は素直に
”ありがとう”って言えよ?」
少しでも目を合わせたくて、
檜原の顔を覗き込む。
「あり…」
「すんません‼︎遅くなりましたー‼︎
って、すみれ先輩っ⁈
めーーっちゃかわいーい‼︎」
せっかく檜原が少しだけど、
オレの目を見ようとしてくれていたのに、檜原のことばを遮ったのは、
遅れてきたリエーフだった。
「リエーフくん⁈あの…ありがとう。」
「うん‼︎すみれ先輩、ほんと可愛い!
オレの彼女になってくださいっ!」
「あはは…もう。またその話?」
檜原がオレに言おうとした
”ありがとう”はリエーフにかき消され、
そのままリエーフへ告げられてしまう。
檜原がリエーフと
楽しそうに話しているのが、
すんげぇイヤだった。