第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
土手に着くとやっぱりなかなかの人で、
レジャーシートを持ってこなかったコトが悔やまれた。
浴衣のまま土手に座らせるのもなぁ…
オレはいいけど、こいつがなぁ…
チラリとすみれを見ると、
すみれもキョロキョロ周りを見渡し、
花火を見る場所を探していた。
「あ!黒尾さんっ!
あっちにしましょう!」
「おい!待てって‼︎転ぶぞー?」
さっきまで手を繋ぐだけで、
真っ赤になっていたすみれはどこへやら…
いい場所を見つけたらしいすみれは、
オレの手を握ったまま、
グイグイ引っ張って歩き出した。
「ほら♪ココならなんとか見えそうだし、人も向こうよりは少ないですよね♪」
すみれに手を引かれて着いた場所は、
花火がよく見える
ベストポジションではなかったが、
十分花火は見えるし、
そのおかげで少し空いていた。
「そうだな。
人混みで見るよりいーな。」
とはいえ、
もちろんそこで見ているのは、
オレらだけじゃない。
すみれと手を繋いではいるが、
オレらがいる場所も
どんどん人が増えてきて、
すみれのほうを見ると、
別の男と触れそうなくらい近づいていた。
「すみれ、大丈夫か?」
「はい!花火、もうすぐですね♪」
ニコッとしながら
すみれはオレを見上げてきた。
オレはその笑顔を見た瞬間、
すみれの後ろにまわり、
後ろからすみれを抱き締めた。
「く、黒尾さんっ⁈」
すみれはオレのほうを
見ようとしていたが、
浴衣で動きづらいからか、
うまくオレのほうを見ることができない。
すみれの可愛い表情を見れないのは
かなり残念だが、
そんなの後でたくさん見てやる。
オレはすみれの後ろから回した手を、
すみれの手に重ね、ギュッと握った。