第32章 -花火-(黒尾鉄朗)
翌日、リエーフの指示通りに
浴衣で集合場所へ行くと
すみれは1番乗りで、
浴衣姿で待っていた。
白地に大きな赤い花があしらわれた
可愛らしい浴衣を着ているすみれは
キョロキョロしたり、
浴衣の帯をいじったり、
髪かざりを触ったり…
小動物のように落ち着かない。
オレはしばらくその様子を
少し離れて観察していた。
やっぱ…可愛いよな。
観察していた…というより、
見惚れていたのかもしれない。
すみれがスマホを見て
不安そうな表情になっていたので、
オレはすみれの後ろ側からまわり、
すみれに声を掛けた。
「お姉さん、1人ー?
オレとデートしない?」
「えっ⁈」
振り返ったすみれの手を取り、
そのまま肩を抱いて顔を覗き込む。
「…⁈黒尾さん⁈」
「よっ♪なに?おまえが1番なの?
つぅか、まだおまえだけ?
他の奴ら遅くね?」
「あの…えっと…それが…」
すみれは何かを言おうとしていたが、
なかなか次のことばを言わなかった。
「ん?どした?」
「あの…皆来れないって…
さっきからいっぱい連絡が…」
「は⁈」
オレは全然見ていなかったスマホを見た。
無料通信アプリ内で作られた
音駒バレー部のグループ…
トーク画面には、他の奴らからの
ドタキャンメッセージ…
なんとなく…わかった。
「すみません…なんか…えっと…」
すみれはシュンとして、
オレの様子を伺っていた。
「別にいんじゃね?」
「えっ⁈」
大きな目をさらに見開いて、
すみれはオレを見上げてきた。
だから、それ…ダメだっつーの。
「2人で行きゃいいだけの話だろ?」
まだ少し不安そうなすみれの頭を
ポンとしてやると、すみれはやっと
少し安心したように
ふっと表情を和らげた。
「はいっ!」
すみれの満面の笑みだけで、
オレは腹がいっぱいだった。
「んじゃ、行くか。」
オレはすみれの手を取って、
そのまま人混みを歩いた。
「黒尾さんっ⁈」
「あん?」
すみれの慌てた様子から、
何を言いたいのか容易に想像がついたが、オレはわざとすっとぼけた。
「なに?」