第28章 -対抗-(二口堅治)
「イチャつくのは勝手だけどさー?
ま、あんたらの場合、
イライラする人もいるみたいだけどー。」
イチャつきカップルに向かって
そう言うと、二口くんは、
意地悪な顔をして、
わたしのほうをチラリと見た。
わたしを抱き締めたまま…。
わたしはまた赤くなってしまい、
二口くんから離れようとしたが、
二口くんは、はなしてくれなかった。
「な、なにがだよ⁈うるせぇな‼︎」
イチャつきカップルの男のコが
やっと言い返してきたが、
二口くんは、そんなの物ともしない。
「荷物当たっただけじゃんとか
思ってんのかもしんねーけど、
そこのポスターも見えないくらい
目悪いんすかー?」
「「…⁈」」
二口くんのことばに、
イチャつきカップルはドアの横に
目をやる。
そこには、
『マナーを守ろう‼︎
・歩きスマホをしない!
・荷物で席を取らない!
・大きな荷物は網棚へ!』
かわいいイラスト付きの、
啓蒙ポスターが貼ってあった。
話しているのは
二口くんだけだったけど、
いつのまにか、
かなり注目を浴びていたようで、
周囲の人も二口くんのことばに頷き、
ちょっとスッキリした表情になっていた。
「お…降りるぞ‼︎」
イチャつきカップルは、
次の駅に着くと、
逃げるように降りていった。
「ちぇーっ。なんだよー?
もっと言い返してこいよなー?
もっと言ってやるつもりだったのにー。」
二口くんは、唇をとがらせ、
まるでオモチャを取り上げられた
子どものようにつぶやいた。
「そんなふうに言わないのー。
でも、ありがとうね。
二口くんのおかげで、
わたしもスッキリしたよ。」
わたしはまた二口くんを見上げて、
お礼を言った。
「んじゃ、お礼にもっと、
オレとイチャイチャしてくれる?」
…⁉︎
ニヤリとした二口くんは、
わたしを抱き締めたまま、
またわたしの耳元に
顔を近づけてきて、
とんでもないことを言う。
「ふ…二口くんっ‼︎」
ちょうど駅に着いたので、
降りる駅ではなかったけど、
わたしは二口くんの手を引いて、
いったん電車を降りた。