第26章 -残業-(黒尾/岩泉/花巻)
「あ!ココ‼︎ココまで来ればわかる‼︎
エスカレーター乗って5階だよっ!」
目的の店が入っているビルまで来ると、
さすがにココまで来れば、
誰だってわかると思うのだが、
それだけではしゃぐように言うすみれを見て、
オレはやっぱこいつが好きなんだなぁと思った。
「わかってるって。行くぞ。」
でも、そんなコトはおくびにも出さず、
すみれを先に乗せ、
エスカレーターに乗った。
「あれ?岩泉?頭になんか付いてるよ?」
「ん?」
「んー?なんだろ?ゴミかな?」
すみれのほうがちっこいが、
すみれがエスカレーターの上にいるから、
オレはすみれに見下ろされていた。
この立ち位置はなんだか新鮮だ。
「ん…んしょ…取れた!
…あれ?シール?なんだろう?」
すみれの手元を覗き込む。
ゲッ…
「あ…もしかして、さっきのコーヒーの?」
…ご名答。
すみれの言うとおり、
オレの頭に付いていたのは、
テイクアウトのコーヒーの飲み口に付いていた赤いシールだった。
やべぇ…なんでこんなトコ付いてんだよ⁈
ちょー恥ずかしいじゃねーか!
たしかに捨てる時、
あのシール付いてねーなと思ったけど…
「あははっ…なんでそのシールが
頭に付くのーー⁇」
すみれはおかしそうに
ケラケラ笑っていたが、
オレは恥ずかしさでいっぱいだった。
かっこわりぃ…。
「岩泉って、もしかして天然?」
「バッ…ちげぇよ‼︎」
エスカレーターで5階までむかいながら、
すみれは楽しそうだった。
「否定するってコトは、
やっぱりほんとは天然なんだよー。
岩泉の意外な一面♪」
…っ⁈
はぁ…すみれにはかなわねーな。
つぅか…
「なぁ?すみれ?」
「なぁに?」
「おまえ、いつまで”岩泉”って呼ぶ気だ?」
オレは話題を変えたくて、
ずっと気になっていたコトを聞いた。
すみれは2人きりの時でも、
オレのコトを”岩泉”と呼ぶ。
2人きりの時くらい
名前呼んでほしいとか…
我ながら女々しいと思うが、
でも、オレはすみれに
名前で呼んでほしかった。