第26章 -残業-(黒尾/岩泉/花巻)
「残業だろー?
別に楽しくなんかねーじゃん。」
「そうですけど…。」
花巻さんとの残業は別だ。
「すみれちゃんも最近遅いのな。
誰も手伝ってくんねーの?」
「手伝ってもらうほどでは…。
花巻さんはまだ終わらないんですか?」
「オレ?オレは終わったけど。」
「…じゃあ、新人のコと
一緒に帰ればよかったのに。
1人で帰らせて大丈夫でしたか?」
ダメだ…さっきから、
捻くれたことばしか出てこない。
「そしたら、おまえ1人じゃん。」
…っ⁈
わたしの嫌味にたいして、
花巻さんから返ってきたことばに
わたしは思わずドキッとしてしまう。
「すみれちゃんさ…」
…グイッ
…っ⁈
突然花巻さんに腕を引かれ、
立ち上がらせられたわたしは、
次の瞬間、花巻さんの腕の中にいた。
「異動してから、オレに冷たくない?」
「え…⁇」
今の状況も花巻さんのことばも
まったく理解ができない。
どーゆーこと⁈
「最近、オレが何言っても
ツンケンしてるしさー。
仕事中も新しい部署で
紅一点チヤホヤされて楽しそうだしさー。」
「…⁉︎チ…チヤホヤされてなんか…」
たしかに今のグループは
女はわたししかいないけど…。
「されてるって。
すみれちゃん異動決まった時、
販売促進の奴らめっちゃ喜んでたし。」
「は…花巻さんこそ‼︎」
「ん?オレ?」
花巻さんは不思議そうに
わたしを抱き締めたまま、
わたしの顔を覗き込んできた。
胸の鼓動がまた速くなる。
「し…新人の可愛い女のコと
楽しそうじゃないですか‼︎
わたしより可愛いし、
わたしより仕事の覚えとか速くて
楽しいんでしょーねー。」
「ふっ…(笑)
おまえ、それってヤキモチ⁇」
「ち…ちがっ‼︎」
「あー♪ほら♪
やっぱヤキモチじゃんかー♪」
「違いますっ‼︎」
違くなんかない。図星だ。
図星だからわたしは何も言い返せなかった。
「ヤキモチだと
オレは嬉しいんだけどなー?」
「え…⁇」