第26章 -残業-(黒尾/岩泉/花巻)
わたしが思わず目を瞑ろうとした瞬間、
黒尾くんは、
さらにわたしの向こうに手を伸ばし、
キーボードのマウスを使っていた右手を
わたしの右側にある普通のマウスに乗せた。
「こっちのマウス、借りますね。」
…っ⁉︎⁉︎
「あ…うん。」
「仕事中に何考えてたんすか〜⁇」
「…‼︎えっ⁈あ…べ…別に何も‼︎」
黒尾くんはニヤリとして、
わたしの顔を一瞥すると、
何事もなかったかのように、
わたしの左側のイスに座った。
し…心臓に悪いよ、黒尾くん…。
最初からイスに座ってくれれば
よかったのに…。
「あ、すみれさん!
コレって、△△の時のっすか?」
「え…⁈うん!そうだけど…」
「あ、じゃあ、アレ使えません?
あ!あとあっちの…コレ、ありますか?」
ふざけてからかってると思ったら、
黒尾くんは急に真面目な顔をして、
わたしの資料をまたいじりだした。
悔しいけど、
その横顔につい見惚れてしまう。
「えっ⁈あ、あると思う。
たしかコレの…」
黒尾くんの温もりが残るマウスを
スッと取り、わたしはファイルを開いた。
「コレだよね?」
「どれっすか?」
…っ⁈
黒尾くんは、PC画面を覗き込もうと、
わたしに顔を寄せてきた。
もう‼︎
さっきからわざとなの⁈
黒尾くんと近づくたび、
わたしのドキドキはおさまらず、
仕事どころじゃない。
「そう‼︎これこれ♪
コレとこっちの使えばいけません?」
「え…?」
黒尾くんがExcelの資料に
関数式を一気に打ち込む。
「ほら♪」
黒尾くんのことばに、
わたしはPCを覗き込んだ。
「…っ⁈(ちけぇっ。
向こうからされると…やべぇな…)」
「え?ほんとだ‼︎すごいすごい‼︎
コレなら大丈夫だよ‼︎」
わたしは食い入るように
黒尾くんが直してくれた資料を見ていた。
「ほんとにありがとう‼︎
でも、最後の資料どこで…?」
「オレも先月似たようなの作ってたから
使えるかなーと思って。」
黒尾くんは、
出来上がった資料を保存すると、
イスごとわたしに向けてきた。
「コレで帰れますねー♪」
「…?うん!ありがとう!」
お礼を言うと、
黒尾くんはニヤリとして、
さらにイスをわたしに近づけてきた。