第22章 -名刺-(月島明光)
-すみれside-
「ありがとうございましたー!
檜原ちゃん、またよろしくな!」
店長のことばを背に、
月島さんと店を出た。
『2人の時はオレのほうを
名前で呼んでくれませんか?』
月島さんのことばに、
思わずドキッとしてしまった。
仕事で話す時は取引先の方だし、
月島さんは、
新人さんということもあって、
わたしのほうが
リードする感じだったのに、
わたしの知らない…月島さんだ…
そう思うと、心が揺さぶられた。
「美味しいお店を教えていただいて
ありがとうございました!」
「いえ。お口にあってよかったです。」
さっきのは…冗談だったの…?
月島さんはさっきとは違い、
いつもの月島さんに戻っていた。
「じゃあ、ボクそろそろ行きますね。」
「はい。気をつけて。」
月島さんは自分の会社に戻るため、
駅のほうへ行ってしまった。
わたしも昼休み終わっちゃう…
はぁ…もっと…
月島さんと話したかったな…
…⁈
あれ…⁇わたし…?
わたしは会社へ戻りながら、
気がついたら、
月島さんのことばかり考えていた。
「檜原さん‼︎」
「月島さん⁈」
振り向くと、
月島さんが走って戻ってきた。
「どうしたんですか?
何か忘れ物でも…?」
「うーん?
ある意味忘れ物ですかね。」
そう言った月島さんに、
なぜだか、名刺を渡された。
「あの…?」
「まぁ、ありがちなんですけど。」
「え…?」
「ま、あとで見てください。
じゃ、今度こそ、失礼します。」
「あ!月島さん⁈」
月島さんは今度は小走りで、
駅のほうへ行ってしまった。
わたしはポカンとして、
思わずその場に立ち尽くしてしまった。
…?
ただの名刺だよね…?
リニューアルされたわけでもないし…
もちろん、初対面のときに
名刺交換はしている。
とりあえず、
名刺入れに入れておこうと思い、
名刺を持ち直したときに、
前に名刺交換した時にはなかった
手書きの文字に気づいた。
…⁈⁈
名刺の、月島さんの名前の横の
余白スペースには、
プライベートのスマホの番号と
メールアドレスが書かれていた。