第22章 -名刺-(月島明光)
檜原さんとの打ち合わせは、
あっという間に終わってしまう。
「ありがとうございました。
お見積り、出来上がりましたら、
メールでお送りしますね。」
エレベーター前で檜原さんに見送られ、
オレは上司と檜原さんの会社を出た。
「もう昼かぁ。オレ、次のアポ、
昼飯食ってたら間に合わないから、
このまま行くな。」
「わかりました!」
オレも昼飯食って会社戻るか。
檜原さん…
昼休みとかで出てこねぇかな。
1人になって気楽になったオレは、
そんな不純なコトを思いながらも、
昼飯を食べる店を探していた。
「あれ?月島さん?」
「…っ⁈檜原さんっ⁈」
やべぇ‼︎
まさか本当に会うとは思わなかった‼︎
檜原さんはランチバッグを持って、
同僚であろう他の女の人と3人で、
オレのほうへ来た。
「お1人ですか?」
「はい。
佐伯は次のアポがあるので、
さっき別れて…。」
本当に檜原さんが目の前に現れ、
テンパりそうになるが、
それだけは隠したくて、
オレは平静を装った。
「ごめんね、先に行っててくれる?」
檜原さんは一緒にいた人たちに言うと、
オレのほうへ向き直った。
「あの…もう会社戻られますか?」
「…‼︎いえ。
昼飯食ってから戻ろうと思ってて。」
「じゃあ、よろしかったら、
お昼ご一緒しませんか?」
「はい!あ、でも、
一緒にいた方たち、いいんですか?」
檜原さんは1人ではなかったので、
少し気になった。
「大丈夫ですよ。彼女たちも
1人になっちゃうわけではないので、
連絡入れておきます。」
「それなら、ぜひ。
この辺で食べたコトないし、
どこに行くか迷ってたんです。」
願ってもない檜原さんからのお誘いに
オレは飛びついた。
檜原さんが案内してくれたのは、
サラリーマンばかりの
小さな定食屋さんだった。
「ココ、お店は小汚いけど、
すごい美味しいんですよ。」
「檜原ちゃーん!
そりゃ聞き捨てならねぇな!」
「ほんとのコトだもーん♪
でも、店長のエビフライは絶品♪」
檜原さんは常連らしく、
店長と話しながら、
慣れたように店に入っていった。