第20章 -名前-(岩泉一)
始業式も終わり、今日は授業もない。
話したコトのないヤツのほうが多いが、
まぁ、顔くらい見たことはある。
1年の頃とは違い、新しいクラスでも、
皆どことなく落ち着いていた。
「すみれー‼︎やっとクラス一緒だねー!」
「同じクラスになれてよかったぁ!」
「すみれ一緒かぁ!ラッキー♪
英語の宿題は頼んだ‼︎」
「なんでよー⁉︎タダじゃしません♪
1回につき1回、
学食のオムライスかなぁ♪」
「はぁ⁈」
落ち着いているクラスの中で、
檜原の周りはいつも賑やかだ。
1年の時でさえそうだった。
入学したてで、
皆ほぼ知り合いがいないという中で、
檜原はあっという間に
前後左右いろんなヤツと話し出し、
クラスをふわっと明るくした。
『えっと…岩泉くん?
岩泉くんは部活決めてる?
ぱっと見、スポーツしてた感じかな?』
オレも檜原に話し掛けられた
前後左右のヤツのうちの1人…。
1年の最初の席は、檜原の右隣で、
高校に入って最初に話したヤツだった。
それもあってか、
学校で1番話す女子は檜原だった。
1番話しやすいのもあったし、
何より…オレは檜原に惚れていた。
オレの中で、檜原の存在が
どんどん大きくなっていくのは
間違いなかった。
いつから…何がキッカケか…
それはもうわからない。
でも…3年間クラスが同じでも、
オレは周りの奴らに
1歩遅れをとっている気がする。
「すみれー!今日の練習さぁ…」
「すみれ、先生呼んでたよー」
男女問わず、ほとんどの奴が
檜原のコトを”すみれ”と呼ぶのだ。
「すみれちゃーん♡
迎えに来たよーー♡」
極めつけはコイツ…。
散々女に騒がれてるクセに、
なぜか檜原にご執心の及川…。
「及川くん⁈」
「すみれちゃんも部活でしょー?
部室まで一緒に行こうよ♡
あ、岩ちゃんも一緒に行く?」
「あはは♪
ほんとに2人は仲良いねー。」
「仲良くねぇよ。檜原、行こうぜ。」
「うん!」
檜原は荷物を持ち、
パタパタ…と、オレの横に来た。
「あ!すみれちゃん!岩ちゃん!
待ってよー!」