第1章 一人の夜
見られてた???
いつから?
私は体を起こし声のする方に向き直った。
そうすると薄い月明かりの中、懐かしい才蔵さんの顔が薄っすらと見えた。
こちらを向いて片膝を立てて、その膝にあごを乗せて寛ぐように座っている。
その顔は少し意地悪く笑っているように思えた。
「さ、さ、才蔵さん
おかっ、おかえりな、さいっ…」
「俺の名を呼んで、何してたのかきいてるんだけど。」
「な、何も…してません」
才蔵さんはニコッと笑うと、
そのまま四つん這いで私に近づいた。
そして、互いの鼻と鼻が触れそうなくらい顔を近づけてくる。
「嘘、嘘。ひとりでなんかいいことしてたんでしょ。」
私の右手を掴み自分の目の前に持ってくる。
「指、濡れてて…、お前さんの匂いがするね。」
私は途端に恥ずかしくなり、瞬時に顔がこれ以上なく火照る。
そしてその手を振りほどいて素早く才蔵さんから離れた。
「俺がいなくて寂しかった?」
才蔵さんは逃げる私ににじり寄ってくる。
私は後ずさりをしていたが、ついに壁際に追いつめられる。