第1章 ひとつ×××
「それは、面白いけれど、どうなんですかね」
少し困って笑ってみせたが、肩を抱かれたまま、道を歩きながら話し合った。
結局、白澤の居るその店の裏手から入り、控え室のような所で女達に囲まれてしまった。
檎を呼ぼうにも「用意が出来たら呼んでくれぃ」と、言い残してピシャリと襖を閉じられる。
「さあ、お嬢さん。女ってのは可愛いだけじゃ面白くないよ、綺麗にしてやるから大人しくしてなさいねえ~?」
「きゃあ!!かわいらしいこと!あの白澤様の彼女って言うからどんな淫乱かと思えば、初心そうな娘じゃないさ」
「いやいや、こんな顔をしてあの旦那をすっかり虜にするんだ。きっと床上手なんだよう。おおこわい」
女衆がもがくネムに好き勝手な想像をぶつけながら見る見るうちに美しい妖艶な美女へとしたてあげてゆく。
煌びやかな着物、白粉、唇には真っ赤な紅が差される。
重くて動き辛い大きな帯、引き摩る長い着物、ジャラジャラと騒がしく揺れる簪は華美なばかりで実用的ではない。
鏡に映された自分はすっかりと別人のようで、爪にまで色を乗せられてしまった。
不服であるが、女としての性をここまで巧く使う事は普段ないので面白くなっても来た。
「さあ、出来上がりだよ」
「これで新人とは思えない仕上がりだねえ」
「まるでベテランさぁ」
女に手を支えて貰いながらやっと立ち上がる。
頭が重みで不恰好に揺れてしまわぬよう、気をつけながら、重たい裾を引き摺って襖へと足を進めた。
襖を開くと、壁に凭れ掛かって待っていた檎が顔を上げた。
ネムを見るとパァッと顔を輝かせ、近付き、ジロジロと観察するように顎を摩り、感心しながらウロチョロと見る。
まるで吟味か、審査か。そのようにされているようで不本意ではある。
「いやあ、孫にも衣装ってなぁ失礼だが、ここまで化けるたぁ思わなんだ。もしかして狐だったのかぃ?」
「そんな訳ありますかね。私はれっきとした正体不明生物ですよ」
「そうじゃったかのう、そは見えんわぃな」
「とにかく、これ物凄く重いんですよ…早く連れて行ってくださいよう…」