第1章 ひとつ×××
それに対してもなにも悪びれたりしない様子に「(暖簾に袖押しか、つまらんの。)」と、口を尖らせて小さく息を吐いた。
「ネムちゃんにどう見えてるかは想像に易いが、見えているより結構疲れるもんよ」
「審美眼というか、そういう人を見る目と経営力があるのは認めますが、簡単にこなしている様に見えるのが檎さんのズルくて羨ましい所ですね」
「そうじゃろそうじゃろ、ヌァ~ハ~ハ~ハ~」
間延びした笑い方に毒気をスッカリ抜かれてしまう。
クスクス笑いが自然と漏れる。
それを見て檎はネムと同じようにテーブルへと肘を付き、両の手に頬を乗せる。
それほど広いテーブルではないので、顔が近くなってしまう。
目をクリクリと大きく開くが、ネムはあえて動かずに居た。
「どうしたんです?」
「…暇ならワシが相手してやってもいいんだがなァ?」
突然の申し出に思わず目を白黒させ、口を開くも言葉が出ない。
その顔を見て檎はヘラヘラ笑いで続けた。
「化けるのは得意じゃよ。ネムちゃんのお好みの姿に変化してみせるから、一晩付き合ってくれんかのう」
「ッ…と、んー、一瞬本気で吃驚しました。からかわないでくださいよ、皆さん揃いも揃って真面目そうな顔で冗談ばかり。地獄では色んな方が居るのでそんな処世術を体得するんですかね」
「他にも誰か誘いをかけてきた奴がぎょーさん居るんかィの?」
「う~ん。案外と多いですよ。特に、ここいらの店はどこもリップサービスが凄くて、うっかり本気にしてしまいそうなくらいに。」
「手でも口でも、ここいらの衆はサービスを受けるもするも巧い輩が大勢じゃからのう」
近くで聞いていた野干の数人も同意するように頷きながら笑い声を小さく漏らす。
嫌いではないけれど、そう言われても知識以上のものがないので多く語るのは難しい。