第1章 ひとつ×××
「優しいなあ。その優しさにつけこんでもいいですか?」
「…おかわりですか?」
「正解っ!こんどはこのさっくり野干チョコパイセットを食べてみたいです」
「すいません、野干チョコパイセットを2つお願いします」
「は~い」
こうして鬼灯の休憩時間や休みの大部分は消費されるのだが、それがある種のストレス発散にも繋がっている。
同じく、ネムもこうやって愚痴を吐きつつ旧友との戯れを楽しむ事により、白澤の火遊びを容認し続けることが出来るのだろう。
もし、1人で胸に灯った火を抑えていたら只事ではすまなかっただろう。
きっとこれほど続かなかったはずだ。
2時間程こうした後、鬼灯は仕事の残りがあるといって閻魔庁へと先に戻っていった。
ネムは別段、白澤を待つ必要はないのだが、桃太郎と一緒に居るとなんだか気恥ずかしいのだ。
彼は白澤の恋人として接するので、それを1人で一身に受けるのがどうも落ち着かない。
また、鬼灯を含めた全ての人が知らないだろう。
実は、私は生娘である。
白澤は手を出そうとはしてくるのだが、頑なに拒み続けている。
交際を始めたのは実はまだほんの1年前からであり、拒むのはそれ故の不安や恐怖だけではなく、性格的な身持ちの固さも所以している。
そして、ネムは人でも無ければ妖怪でもない。
性別はあるが、白澤とも鬼灯とも亡者とも閻魔とも…全く違う生き物である。
性欲はあると思うが、それをどう発散するのか、発散しても良いものなのか。
自分自身でもわからずに永い時間を生きてきたのだ。
気付けば既にこの姿で、まるで夢から覚めたように意識を持っていた。
そのせいで、純潔を散らすことに抵抗を覚えるのだろうか。