第3章 誘拐
黒子は、そのまま何事もなかったかのように歩いてってしまった。南雲は固まったまま、黒子の背中を見てゾッとした。
( 見て……いたんだ……ッ )
無表情で、言葉にも感情が乗っていない黒子の一言が頭から離れず、右手がカタカタと震えていた。
右手を左手で握り、震えるのを抑えるようにその場に蹲る。
怖い。その感情だけが心の中に渦巻く。
「く、黒子君に、誤解だって……言わなくちゃ……ッ」
立ち上がり黒子の後を追うとするが、既に黒子の姿はなくなていた。
兎に角今は、バイトに行こう。そう自分に言い聞かせて、南雲は学校を後にして、バイト先のカフェに向かった。
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バイトが終わり、放課後の部活に顔を出さなくてはいけない。南雲は憂鬱な気分を押し殺して学校に向かう準備をする、スタッフルームのロッカーの中に付いている鏡に映る自分の顔を見て、笑ってみる。
笑えない。
「……ダメだ。」
自分の頬に一喝入れて、今度は精一杯の笑顔を作る。先ほどよりはマシになったその顔見てから、ロッカーを閉じでバイト先をでる。
行く途中の道の自動販売機で、缶コーヒーを買って一口飲む。口がコーヒーですっきりして、気持ちも少しスッキリした。
「そうだ、気にするな。もうすぐ試合もあるんだし、みんなのことを一番に考えなくっちゃ。」
缶コーヒーをその場で一気に飲み、後ろにあるゴミかごに入れ、歩き出す。
学校に着き、体育館に向かう。体育館からは、もうバッシュが床と擦れてキュッキュッという音が聞こえている。
「早いなぁ、誰だ?」
靴を履き替えて体育館に入ると、南雲は生唾を飲む。
そこに居たのは紛れもない、黒子テツヤだったからだ。