第8章 【オオカミ少女と不二王子】
静かな中庭に聞こえてくるのはワルツの音楽と曲に重なる2人の鼓動。
そして周ちゃんが私の髪を撫でる音・・・
周ちゃんが私を見ている。
周ちゃんの視線は私を金縛りにさせる・・・
「璃音・・・君の気持ちも・・・僕にくれないかな・・・?」
沈黙を破って彼がそう言う。
手足が震える。
何か言わなきゃ・・・きちんと答えなきゃ・・・
でも・・・なんて・・・?
「周ちゃん、シンデレラって本当に幸せになったのかな・・・?」
「え・・・?」
私の突拍子もない質問に、彼が驚いている。
「子供の頃は信じて疑わなかったの・・・私にもいつかシンデレラのように素敵な王子様が現われて、私を幸せにしてくれるんだって・・・信じてた・・・」
かぼちゃの馬車にきれいなドレス
ガラスの靴に豪華なダンスパーティー
そして迎えに来てくれる憧れの王子様
世界中の少女たちが憧れる夢のような物語―――
でも・・・結婚してその後は・・・?
シンデレラは不安にならなかったの・・・?
身分の違いを目の前に突きつけられて、あなたは本当に苦しまなかったの・・・?
「でもきっと・・・シンデレラと王子様の恋は身分違いの恋で・・・シンデレラは辛かったと思う・・・王子様を好きになればなるほど・・・結局、自分はただの灰かぶりなんだって・・・現実を突きつけられて・・・凄く惨めな気持ちになったんじゃないかな・・・」
そう、私はシンデレラを自分に重ねて見ているんだ・・・
中学生になって、あの伝統あるテニス部でレギュラーになって・・・
あっという間に注目されるようになった周ちゃん・・・
そんな周ちゃんは・・・回りの期待を裏切らず、テニスも勉強も・・・すべてを完璧にこなしていった・・・
大好きな周ちゃんは、誰もが憧れる王子様のように素敵に成長して、私の手が届かないほど遠くに行ってしまった・・・
たとえ、今、この手をとったとしても、私はまた不安に押しつぶされてしまう・・・
「私・・・本当にひねくれているよね・・・でも・・・子供の頃からずっと大好きだった周ちゃんが、今、こうやって私に手を差し伸べてくれているのに・・・怖くて・・・その手をとる勇気が・・・ないの・・・」
ごめんなさい―――
私は震える声でそう続けた・・・