第8章 【オオカミ少女と不二王子】
* * *
中庭のステージの幕をそっと開ける。
彼女は余程疲れていたのだろう。
僕が入ってきたことにも気が付かず、セットの椅子にもたれかかり静かに寝息を立てていた。
秋風が吹いて彼女が体を縮める。
この時間ともなると、身体が冷えるのだろう。
彼女が風邪をひいたら大変だ・・・
僕は自分の制服の上着を脱いで彼女にそっとかける。
そしてその寝顔を覗き込む。
安心しきったような・・・子どものような寝顔で・・・
ちょっとためらった後、僕は彼女の髪にそっと触れた。
すると彼女は、ん・・・と小さく声を上げて目を開ける。
しまった、起こしてしまったかな・・・
もう少し彼女の寝顔を見ていたかったのに・・・
「ゴメン、起こしちゃった?」
「ん・・・周ちゃん・・・?」
まだしっかり目が覚めていないのだろう。
僕のことを「周ちゃん」と呼びながら目をこすっている。
「私・・・寝ちゃっ・・・てた・・・?」
「うん、グッスリ寝てたみたい。」
「周ちゃん・・・寝顔・・・見た・・・?」
「うん、バッチリ。」
「やだ・・・ハズカシイ・・・」
そういいながら彼女は髪を整える。
だんだん目が覚めてきたのだろう。
ぴたっとその動きが止まったかと思うと、ガタガタっと勢いよく立ち上がった。
「ふ、不二くん!!??」
「おはよう。」
「おは・・・じゃなくて・・・え?え??」
「目、覚めた?」
頬を押さえる彼女・・・
薄暗いステージでも、真っ赤な顔をしているのが分かる。
立ち上がった際にステージ上に落ちた僕の制服を、ごめんなさい!と彼女が慌てて拾い上げ僕に返す。
「不二くん、いつから・・・どうしてここに?」
「さっきだよ。英二がここだって教えてくれてね。」
「あ・・・菊丸くん・・・そっか・・・」
彼女はそっと幕まで歩くとちょっとだけ指でそれを開ける。
僕も彼女の隣に並んで一緒にグラウンドのほうを眺める。
キャンプファイヤーの炎を沢山の生徒達が囲んでいるのが見える。
「みんな・・・幸せそうだね・・・」
「そうだね・・・」
今、僕達はすぐ近くで一緒に同じ景色を見ていて・・・そして同じことを感じている・・・