第8章 【オオカミ少女と不二王子】
中庭に向かう途中、廊下の角を曲がったところで誰かが飛び出してきて、思わずぶつかりそうになる。
「わっ!すみませんっ・・・って小宮山じゃん!」
「あ、菊丸くん・・・慌ててどうしたの・・・?」
「あー、今は説明している暇ないない!ちょっち助けて!!」
菊丸くんはそういうとすぐ隣の空き教室に飛び込んだ。
助けてってどういうこと?と不思議に思っていると、女の子が数人で走ってきた。
「あれ?英二いないよ!こっちに来たと思ったのに!」
「うそぉ!見失なっちゃった!?」
「どこ行ったのかなぁ・・・?」
あぁ・・・菊丸くんのファンの子たちか・・・
「ねぇ、英二、見なかった?」
「えっと、あっちに行ったけど・・・」
私が全然違う方向を指さすと、彼女たちは走り去っていった。
女の子達がいなくなると空き教室から菊丸くんが顔をだし、ふぃー・・・とため息をついてその場に座り込む。
「あんがとね、もう参っちゃったよ~、朝からずっとでさ~」
「ふふ、人気者は大変ね?」
「うんにゃー、楽しい企画なんだけどねぇ・・・不二も誰とも交換してないから、きっと今頃逃げ回ってると思うよん?」
不二くん・・・交換していないんだ・・・
私には関係ないはずなのに、誰とも交換していないと聞いて、ほっとしている自分がいて、胸のあたりで拳をギュッと握りしめた。
「で、これから小宮山はどうすんの?」
「私?・・・私は別にダンスする相手もいないし、疲れちゃったから後夜祭が終るまで中庭のステージで休もうかなって。あそこ立ち入り禁止でしょ?ゆっくり出来るかなって・・・」
「うんうん、なるほどね~。」
1人で納得している菊丸くんと別れると、私は1人中庭のステージに潜り込み、そっと幕の間から外を眺める。
辺りはもうだいぶ薄暗くなってきていて、グラウンドのキャンプファイヤーがきれいに見えた。
アナウンスが流れ、後夜祭の始まりを告げる。
そして生徒達の間に歓声が沸き起こる。
あの炎を囲む人たちは、みんなどういう気持ちなのだろうか・・・
想いが通じ、幸せそうな人・・・
残念な結果になってしまい、慰めあう人・・・
私は白い花をポケットから出すとそれをじっと見つめた。
勇気が足りずに気持ちを打ち明ける事が出来なかった人もいるだろうか・・・
私のように―――