第8章 【オオカミ少女と不二王子】
僕の思惑通り、彼女は了解してくれた。
姉さんに軽く挨拶をし、僕の部屋に移動する。
「本当に久しぶりだね、璃音ちゃんが僕の家に来るの。」
「うん・・・不二くんの部屋・・・大人っぽくなったね・・・」
「そうかな?」
「うん・・・レコードとか増えたし・・・」
彼女はグルっと僕の部屋を一通り見回し、ある場所で視線がとまる。
僕が気に入って貼っている写真のところだ。
「あ・・・これ・・・」
「あぁ、子どもの頃の写真だね。」
「ん、由美子お姉さんと裕ちゃんと・・・私・・・」
写真には姉さんと璃音ちゃんが笑顔で並んでいて、少し離れてふてくされた裕太が写っている。
写真の中の彼女はあの愛らしい笑顔で、今でもレンズ越しにみた君の笑顔を僕は鮮明に覚えている。
そして・・・
僕はいつもこの写真を見ながら君を思っていた・・・
「うん、その写真は僕が初めてとった本格的なものだったからね。気に入っているんだ。」
「周ちゃん、この頃からカメラに懲りだしたもんね。懐かしい・・・」
「裕太には『いい加減に外せ!』って怒られるけどね。」
「ふふ、裕ちゃんらしい。」
写真をみて当時を懐かしんだからか、裕太を「裕ちゃん」呼ぶのにつられたからか・・・彼女が久しぶりに僕を「周ちゃん」と呼び笑う。
その瞬間、懐かしさと嬉しさで僕の胸はいっぱいになった・・・
でも彼女はすぐに、あっ!という顔をして、愛らしい笑顔はまた元のぎこちないものに戻ってしまった。
君の笑顔を取り戻したい―――――
どうしたら、取り戻せるだろうか・・・?
どうしたら、心を開いてくれるだろうか・・・?
どうしたら・・・僕のものになってくれるだろうか・・・?
僕は君を手に入れたい・・・
たとえどんな手を使っても・・・
そして僕は台本を手に取る。
彼女が書いた王子様を完璧に演じるために・・・
「じゃあ、始めようか。」
「・・・うん、どの辺りかな?」
「最後の方なんだけど・・・ガラスの靴でシンデレラが見つかったところから。」
「じゃあ・・・王子様以外は私がするね?」