第8章 【オオカミ少女と不二王子】
「・・・じゃ、次は不二くんね?」
「うん、よろしくね。」
彼の近くに寄った瞬間、私の心臓が大きくドクンとなる。
自分でも顔がかぁーっと赤くなるのがわかり、メジャーを持つ手が小さく震える。
それを悟られないように、俯いたまま急いでサイズを測る。
不二くんはサイズを測られるのが慣れているのか、こちらに合わせて上手に身体を動かし、菊丸くんの時とは違ってスムーズに終わる。
「はい、ありがとう・・・」
そして私は足早に彼のもとから立ち去る。
緊張から自然と息を止めてしまい、はぁ~と大きく深呼吸する。
そっと彼を振り返ると、菊丸くんと一緒に教室を出ていくのが見えた。
そしてその途端、数人の女の子達が集まってくる。
「ねぇねぇ、小宮山さん!不二くんって、小宮山さんだけ名前で呼ぶよね?他の女子は苗字で呼ぶのに。」
「そうそう!どうして?」
「まさか・・・付き合ってるの???」
ふう・・・女の子は大抵こういう反応にでる。
大して親しくないグループに囲まれて、私はどうしていいかわからず言葉に詰まってしまう。
「違うよ、璃音と不二くんは幼なじみだよ。」
「美沙ちゃん!」
オロオロしている私に親友の美沙ちゃんがフォローをしてくれてほっとする。
「幼なじみ?」
「うん、家が近所で・・・」
「な~んだ、よかった~」
群がっていた女の子達は、安心したようで自分の仕事に戻っていく。
集団から解放されて、ほっと胸をなでおろす。
「ありがとう、美沙ちゃん・・・。」
「あの子達、不二くんファンだからね~。」
「ん・・・。」
そう・・・不二くんは人気があって沢山のファンがいる。
告白なんて日常茶飯事で、彼女たちもことあるごとに不二くんにアピールしている。
私なんてただの幼なじみなのに・・・
恋する乙女というものは、こんな地味な私なんかでも、名前で呼ばれていることが気になるのだろう。
そして、気になるだけでなく
気に入らない―――
「大体、小宮山さんと不二くんじゃね~?」
「つりあわないっつ~の!」
「アハハハハ!」
そんなこと、あなた達に言われなくても自分が1番わかっている。
わかっているけど・・・心臓がギュッと痛んだ。