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【テニプリ】桜の木の下で

第7章 【とある乾の禁書目録】




その日の午後は全く授業に集中できなかった。
浮かんでくるのは彼女の頬を染めた顔と祐大と呼ぶ甘い声。
自分には見せたことがない彼女のそのしぐさに心が押しつぶされそうになる。


彼女のデータノートを読み返す。
・・・もはやこれはデータではないな・・・
私情が入りすぎている。
俺にデータをとらせてくれない相手がここにもいたか・・・


眼鏡を中指でくいっと上げ、ふーと一つため息を落とす。


データを持たない俺にいったい何ができるというのか・・・
否、データを持たない俺にできることはいったい何だろうか・・・


窓の外を眺めると、中庭の桜の木が目に入る。


伝説の桜の木、か・・・


伝説だとか、妖精だとか・・・
科学で証明できないものを信じるつもりは全くない。
だが、いないこともまた証明されていない。
興味深いことに何人もの知人が、あの伝説通りうまくいったこともまた事実。


そして俺は一つの答えを導き出す。


もし今日あの場所で彼女を待ち、彼女が現れればその時はこの思いを口にしよう。
駄目なら駄目で仕方がない。
何もしないで勝負から逃げるのは俺の方針に反する。


俺はノートを閉じると席を立ち、教室を後にした。
彼女との関係に決着をつけるために。



桜の木の下に着くと俺は根元に片膝を立てて座り、そして彼女を待つ。
一度そうすると決めてしまえば、何のことはない。
先ほどまでの動揺は嘘のように落ち着いている。


彼女が現れる確証などないのに、不思議と彼女がもうすぐ現れると確信している自分がいる。


秋風が木の枝を揺らし、落ち葉が数枚舞い落ちる。
それを俺は手に取り、そっと眺める。


「乾くん!」


案の定現れた彼女を俺は見上げる。
両手を後ろにつないで見下ろす彼女の髪やスカートが秋風に揺れる。


「やぁ、待っていたよ、小宮山さん。」


そう言うと、彼女は待っててくれたんだ?といつものように笑った。


「今日は本当にすまなかったね。」
「ううん、気にしないで?無事に誤魔化せたし。」
「・・・いや、そうではない。」


俺は立ち上がり、今度は彼女を見下ろす。
彼女は不思議そうな顔をして俺を見上げる。


「大和部長との話の邪魔をしてすまなかったね。」


彼女の顔が急に赤くなる。
決定的だな、そう深いため息をついて俺は目を閉じる。

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