第7章 【とある乾の禁書目録】
「データ?」
突然現れて横からひょいと覗き込む彼女の横顔に、慌てて数歩後ずさりする。
「小宮山さん、どうしてここに!?」
「後輩用マル秘ノート・・・あぁ!」
彼女は俺の質問には答えず、ノートの表紙を見て何かを思いだしたように、ぽんと手を合わせ、俺を見上げた。
「乾くんって、あのテニス部の乾くんね!」
「・・・確かに俺はテニス部の乾だが、あの、とはどういう意味かな?」
「だって有名だもの!」
笑顔で俺を見上げるその顔にドキリとする。
有名だ、と言われ、妙な期待をしてしまう。
「去年の夏、水泳教室で盗撮して訴えらそうになった乾くんでしょ?」
バサバサと、俺は手にしていたノートを床に落とし、ひきつった笑顔で彼女を見るしかなかった。
彼女は相変わらず無邪気な笑顔で俺を見上げていた。
「いや、あれは・・・盗撮というのではなく・・・データをとろうとしてだな・・その・・・」
彼女はクスクス笑い、ノートを拾うと俺にはい、と手渡す。
「・・・高等部までその噂は広まっていたのだろうか?」
「あ、私は・・・大和くんから聞いたの。」
「大和部長から?」
「そう、同じクラスだったから。」
そう笑って彼女はセーラー服の上着から腕を引き抜きブラウスの肩にかけ、片手は肘に、もう一方の片手を顎に持ってくる。
「困りましたね、彼は決して悪い子ではないのです。ただちょっとデータを集めることに夢中になりすぎて、周りが見えなくなってしまうだけなんです。」
そう得意げに言う。
それは大和部長のマネかい?そう聞くと、似てた?と彼女が笑う。
俺が苦笑いすると、彼女はぶーと頬を膨らませながら制服を着直す。
彼女は両手を後ろでつなぎ、少し前かがみで俺を見上げ、そうそう、と続ける。
「乾くん、昨日、私のデータ集めてたでしょ?」
「・・・あ、あぁ・・・そうだが・・・」
「とっておきの情報、教えてあげる?」
私の好みのタイプはね、個性的な人、そう笑って彼女は手を振り教室から走り去る。
個性的な人か、俺は、十分当てはまると思うのだが・・・?
いやまて、どうしてこんなに気になるのだろうか?
この気持ちもただの興味本位なのだろうか・・・
そして彼女はどうして好みのタイプを教えてくれたのだろうか?
不確定要素が多すぎる・・・