第6章 【迷い猫海堂ラン!】
お母さんが亡くなって、お父さんも悲しみから立ち直れなくて、どうしようって思ったとき、弟がお母さんを恋しがって泣くから、私がしっかりしなきゃ、お母さんの代わりにならなくちゃって、ひたすら無我夢中で・・・
でも、やっぱり間違いだったのかもしれない。
自分の許容範囲、越えちゃってたんだよね・・・
そうゆっくり話す私の言葉を、海堂は黙って聞いてくれた。
変に口を挟まず聞いてくれたから、私も自分自身に言い聞かせるように、自分の気持ちとしっかり向き合うことが出来た。
今の生活に大きな不満はない。
でもやっぱり少しは学生らしい学生生活も送りたい。
友達も作りたい。
放課後、遊びにも行ってみたい。
勉強ももう少し頑張りたい。
小さい不満がちょっとずつ蓄積されていたのかもしれない。
「聞いてくれてありがとうね、私・・・お父さんと話してみる。」
「そうか、頑張れよ」
「うん・・・」
そして私が笑うと、海堂はふっと笑い、席を立った。
「それじゃ、俺は帰る」
「ロードワークの邪魔して本当にごめんね?」
「いや、別にどうってことねぇ。」
玄関で靴を履く海堂の背中を見て、思わず自分と重なる。
常に一生懸命走り続ける海堂、自分の弱音なんて吐かずに自分の中にため込んでしまう彼・・・
「・・・海堂」
「なんだ?」
「海堂も・・・ムリしないでね?」
彼の目が大きく見開かれ、私の方をじっと見る。
「最近、無理、してない?」
「・・・なぜそう思う?」
「んー・・・なんとなく?」
部長、大変?そう聞くと、楽ではねぇな、そう海堂は答えた。
「手塚先輩の後だもんね・・・」
「まぁな」
「頼りになる先輩、沢山いたもんね」
「そうだな」
「でもさ、海堂は海堂のやり方でいいじゃん?」
「・・・そうだな」
「無理だけはしないでね?・・・経験者は語る、ということで・・・」
そういう私に、あぁ、とだけ言って海堂は帰って行った。
おせっかいだったかな、そう思ったけど、どうしても言いたくなった。
自分が無理しちゃっていっぱいいっぱいになったから、海堂には無理してほしくなかった。
私が海堂のおかげでふっきれたように、私も海堂の心を軽くしてあげれるといいんだけれどな・・・
そう思いながら、私は海堂の背中が見えなくなるまでそっと見送った。