第6章 【迷い猫海堂ラン!】
* * *
ある日のお昼休み、私は海堂の隣を通って動きがとまる。
「な・・・何、この弁当!?」
「あぁ?」
海堂のお弁当は重箱に入っていて、いつもすごいとは思っていたけれど、今日のはなんかとてもすごい。
どーんと伊勢エビ入ってるんですけど!!
「か、海堂、なにこれ?」
「伊勢エビのオランデーズソースだ」
「オランダソース?」
「オランデーズソースだ!!」
「オランダでもオレンダでもなんでもいいや、頂戴!」
「あぁっ!なんでそうなるんだ!?」
だってお弁当に伊勢エビだよ!?
滅多に食べられないものをお弁当に持ってくるんだよ!?
重箱弁当に入っている伊勢エビはまるでおせち料理みたいだよ!?
フシュー、と怒る海堂をまぁまぁとなだめると、前の席の椅子をひっくり返し、向かい合って座る。
「テメェはテメェの弁当を食いやがれ!」
「いやー、それなんだけどさ~」
そう言って、私は自分の弁当を広げる。
「な、なんだ、その弁当は!?」
「じゃーん、日の丸弁当~♪」
私のお弁当は白いご飯の真ん中に梅干し一個のいわゆる日の丸弁当。
まぁ、弟にキャラ弁作ってあげたら、時間が無くなったからなんだけど。
「これじゃお腹が空いて死ぬ~」
「腹は満たされるだろうが!」
「心は満たされない~」
「んなこと知るか!」
「海堂の人殺しーーー」
「人聞き悪いこと言うんじゃねぇ!!」
そんなやり取りをした後、なんだかんだと海堂にオランダなんとかを分けてもらった。
というか、無理矢理、強奪したと言っても過言ではないんだけど。
「おいしい~♪海堂のお母さんすごーい!!」
「お前の母親はもう少し頑張った方がいいんじゃないのか?」
その言葉に一瞬、自分の身体が固まるのがわかる。
彼がなんだ?という顔で見ている。
私は、慌てて、あー・・・と苦笑いで口を開く。
「お母さん、お弁当・・・作れないから・・・」
「仕事が忙しいのか?」
「ま、そんなとこ」
事実を隠すつもりはないんだけど、だからと言って言いふらす話でもない。
話した時の相手の気まずそうな雰囲気はいたたまれないし、同情されるのも好きじゃない。
だから事実を知っているのはごく少ない、同小出身の子たちだけ。
そんなことよりさ、そう言って私は無理やり話題を変えてやりすごした。